終戦へ

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「大丈夫か」 大勢が決した晩。 ライヤがヨルに声をかける。 「って俺がいうのもどうかとは思うんだけどな。俺以外に誰がいるって話にもなるし……」 言い訳(?)のような言葉しか出てこない。 「……ライヤさんにだから、言います」 「うん」 「大丈夫なはずが、ないです」 顔を上げたヨルの目元は赤く、涙の痕もついている。 ライヤの顔を見てまたこみ上げてきたのか、すぐに顔を伏せる。 それを見てライヤは隣に腰を下ろす。 無言のまま、時間が過ぎる。 少し離れたところとはいえ、王国軍の野営地の中だ。 兵たちが慌ただしく行き交う足音が響く。 「……恨む気持ちがないと言えば、嘘になるかもしれません」 「そうだな」 「ただ、単純な恨みというよりは。先生程の人ならもっと他に解決できたんじゃないかという考えが浮かんでしまうんです」 「……悪いが、無理だ。俺にそんな大した力はないし、今回は国同士の戦争だ、一個人のできることなんて限られている。ヨルの父親だって、それがわかってたから俺に勝ちを譲ってくれたんだ」 ヨルの父が本気で戦おうとしていたら周りで見ていた自分の軍や王国軍を巻き込んでやっていたはずだ。 その場合、のろのろと後ろに回り込んでいたライヤももれなく範囲攻撃に巻き込まれてあんなに上手くいくことはなかっただろう。 ヨルの父の投降に合わせて投降した軍は聞き分けも良く、簡単に武装解除を受け入れ、一か所に集められている。 死んだ後ですらその言葉に力があるのだ。 どれだけ優れた指揮官だったのかが伺える。 「……悪いと思ってるなら、私を貰ってください」 「それとこれとは別の話だな。ってか女性としてはそれでいいのか?」 「……確かにちょっと癪ですね。じゃあ、それはそれとして貰ってください」 「めげないな……」 冗談を強がりととるか、強いととるか。 「じゃあ、今だけは私を慰めてください」 ライヤの肩に顔を押し当て、静かにまた涙を流す。 ライヤは動かず、気の向くままにさせるのであった。 「ヨル殿はどうだ?」 「明日にはまた頑張るそうです。実際、頑張らせたくはないですが」 「じゃが、ヨル殿の能力はかなり有用じゃ。どうしてもという時には……」 「頑張らせたくないっていうのは俺の我儘ですから。言えば頑張ってくれるとは思いますよ」 「じゃあ、ライヤはどうなの?」 「俺?」 メンデスは大将らしく、次の話をする。 一方、アンはライヤの心配をしていた。 「ライヤもかなり神経すり減らしたでしょ。明日もちゃんと戦えるの?」 「心配してくれるのはありがたいが、俺が音を上げるわけにはいかないだろ。申し訳が立たない」 「私は現地で見ていないから何とも言えないけど、かなり魔力も使ったでしょう? 万全なの?」 「そんなこと言ったら万全な状態で事に向かえるのなんてスポーツくらいだろ。スポーツすらコンディションはあるし」 「そういう話じゃないでしょ!」 のらりくらりと屁理屈で明言を避けるライヤの頭を押さえ、ぐりぐりと圧を加えるアン。 「いてぇ! 痛いって!」 「あら。思っていたより元気な反応ね」 「人体実験かよ!」 どうにか逃れたライヤはスススとアンから距離をとる。 「仮にあんまり元気じゃなくてもやる。ここで意地を張らなくてどこで張るんだ」 「普段折れてばかりだものね」 「う、うん……?」 思い当たる節はあるが、そこまで言われるほどだろうか……。 「メンデス。明日からは総力をぶつけるわよ。勝算は?」 「むしろ、その方が高いじゃろ。兵の質で勝っておるんじゃから、物量で押せば負ける道理がない」 「それもそうね。なら、できるだけ早く終わらせるわよ。私、これでもけっこう怒ってるの。早く帰ってカムイを殴らないといけないから」 ライヤもメンデスも、他の将校たちも、わかっていた。 特に、いつもは大抵のことは為されるがままのライヤがアンから距離をとったのが何よりの証拠である。 イライラを自分にぶつけられないように避難しているのだ。 よほどである。 「任せておけ。伊達に大将やっとらんわ。勝ち戦を100パーセント勝ってきたからわしはこの立場におる」 宣言通り、そこからは一方的な展開となった。
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