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ずるいやり方
ゴツン。
「!? グー!? グーで今頭殴りました!?」
「私が言うのもなんだけど、仕方ないと思うわよ」
どうせ逃れられない王様からの言葉を受け入れたライヤ。
家に帰ってふて寝しようかとも思ったが、それよりも先にすべきことがあった。
「どんな打算があったとしても、自分を危険に追いやるような動きをするな。俺はそれが一番嫌いだからな」
「! ごめんなさい……」
単純に王女として間違っているということも出来るが、王様も説き伏せたうえでのあの場だっただろうから、ライヤが言うのはお門違いだ。
だが、ウィルはライヤのことが好きだと公言している。
ライヤが一番嫌いと言えば、やらないように心がけてくれるだろう。
恋心を利用した、ずるいやり方だ。
「ほら、ウィル。ライヤにこんな顔させるんじゃないわよ」
ずるいやり方に少し顔を陰らせたライヤを気遣ってアンは言う。
「独りよがりな好きなら、諦めたほうがいいんじゃない?」
いや、違った。
それを利用しての牽制だった。
「……この程度で諦めるなら、好きになってません!」
目の前で美人姉妹が自分を取り合う状況。
人によっては、というかほとんどの人にとっては羨ましがられる状況ではなかろうか。
重婚も別に許容される世界。
2人が王女であるという事にさえ目を瞑れば何の問題もない。
それが最大の問題ではあるのだが。
「その話はまた他の場でしてくれ……」
諸国連合の重鎮たちが部屋を後にしたとはいえ、国王を始め王国の重鎮たちは軒並み残っている。
自国の王女が1人の平民の男を取り合って対立しているなど、見ていて気持ちの良いものではない。
そしてこの場合、厳しい目が向けられるのはライヤである。
針のむしろに重りつけて座らされている気分である。
「モテるな、ライヤよ」
「どうにかしてくださいよ……」
「無理だ。俺も妻含め、家族に嫌われたくはないのでな」
父親であり、国王である唯一この戦争を止められそうな人物が匙を投げ、この争いが終わらないことが決定した。
「それで、学園長としてはどうするんです?」
「そんなこと言われても、私も国王の言葉には逆らえないわよ?」
見た目からは信じられないが、学園長は国王とは昔馴染みらしい。
だからこそ、国王の決定を覆せるかと一縷の望みをかけて学園長室を訪れたのだが、その望みは敢え無く潰えた。
「本当に俺だけで対応するんですか?」
「他に補佐をつけて欲しいの?」
「せめてヨルを副担任にください」
諸国連合の人間であるヨルがいれば、いくらか抑えが利くようになるのではないだろうか。
祖国を裏切った人間としてヨルがみなされることがあれば、仕方ないがライヤ一人になってしまうだろう。
だが、一旦は試してみたい。
「そう言うと思って、もうヨル先生にも話はつけてあるわ。普段の回復魔法を使った仕事はこなしてもらうけど、それが無い時にはライヤ先生のところにつけるわ」
「ありがたいです」
「というわけで、副担任になりました!」
改めて生徒たちにヨルを紹介するが、ものすっごい顔が困惑している。
遂に直接的に先生として接することになるのだ。
今まで仲良くしていた分、そう簡単には割り切れないだろう。
「今度転入生が来ますが、そちらの方々のサポートをメインにします。授業自体はライヤ先生から変わることは無いので安心してください。恐らく、あと1,2週間で到着すると思いますが、皆さん仲良くしてくださいね?」
ライヤと一緒に先生が出来ると聞いてニコニコなヨル。
こいつを連れてきたの間違ったかもしれんと薄々感じるライヤであった。
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