奇策

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奇策

「ちゃんと教養の授業も行うのですね」 「それは学校ですから」 ミクにとっては久しぶりの学校である。 魔術学校と名前がついているので魔法しか学ばないものだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。 ライヤの魔法の技量についてはもはや議論の余地はないが、授業は想像していたものとは少し違った。 日本でよくあるような授業ではなく、どちらかといえばこちらの世界にきてからの家庭教師の授業に近い。 だが、ごく少数しかいないS(クラス)においてはそれが一つの正解の形なのだろう。 朝のやり取りから生徒たちのライヤに対する信頼が厚いのがわかる。 去年の授業も評判が良かったのだろう。 「(王国の歴史などについての授業は面白いのですけど。数学などの授業はいささか暇ですね……)」 ミクとキリトは元々中学生だった。 10歳向けの未だ算数の域を抜けていない授業は退屈に感じられるだろう。 「(なんで異世界まで来て勉強なんてしないといけないんだ……?)」 だがここについていけていない男が1人。 元々勉強は苦手だったが、こちらの世界にきてつけてもらった家庭教師も無視して生きてきていた。 もちろん、1年生である年齢の時に受けているべきである指導など受けて来ていない。 何にでも言えることだが、最初の段階で躓くとその先の物事に理解が及ばなくなってしまう。 勉強で言えば「解けない」ではなく、「何を言っているかわからない」になってしまう。 そうなるとやる気が失せるのは当然だろう。 キリトの場合は自業自得ではあるのだが。 しかしライヤの立場からすれば、諸国連合から預かった生徒が早々にドロップアウトしたというのは外聞の良いものではない。 たとえその要因が諸国連合側にあってもそんなことを証明する手立てなどないのだ。 というわけで、実は追い詰められているのはライヤだったりする。 明らかに勉強についていけていないキリトを見て、ライヤは一計を案じた。 「……なによ」 「いや、キリトの家庭教師的なのをやってもらえないかなーって」 「殺されたいの?」 イリーナに頼むのだ。 「キリトと関わりのある人間は多くないんだよ」 「それは王国ならそうでしょうけど。あなたがやればいいじゃない」 「俺だと話を聞かないから言ってるんだ。俺の教師としての腕どうこう以前に話を聞く気がないんじゃどうしようもない」 「力不足を認めるようなものね」 「その通りだ。だからこうして頭を下げている」 ライヤから視線を切っていたイリーナが視線を戻すと、確かにライヤが頭を下げていた。 「それで、私がその話を受けると思うの? 私自身の力不足を実感したって話したばかりだったと思うんだけど」 先日、キリトを圧倒したライヤの圧倒的速度の魔法構築を見てその考えは正しかったことをより実感した。 「二つ返事で受けてもらえるとは思ってないけど、可能性はあるかなと思って話したんだ。そもそも、聞かないで諦めるのもおかしな話だしな? それにもう6年生だ。授業自体もあんまりないだろ?」 アジャイブ魔術学校は日本の大学のように単位制ではない。 だが、学年が上がるにつれて家業の方で忙しくなったりすることが多いのでほとんどの授業は5年生までに行われる。 その後は小隊を組んでフィールドワークに出かけたり、それぞれで腕を磨き合うなど、比較的自由になるのだ。 「暇だからやれって言いたいの?」 「端的に言うとな。あと」 「?」 「クラブ活動に疑念を抱かなかったか?」 「!」 イリーナはアンよりはまともだが、好戦的な性格なのは変わらない。 現状のクラブ活動で満足がいくとはとても思えないのだ。 今まではなぜか感じていなかったようだが、キリトとの手合わせで戦う歓びを思い出したからには違和感を覚えるだろうと踏んだのだが、間違っていなかった。 「……何かあるの?」 「あるだろうな。イリーナだっておかしいと思うだろ? あんなに活動内容が変わったのに自分が違和感を感じていなかったことに対して」 活動内容に変更はまあいい。 そういうこともあるだろう。 だが、それに気づいていないかのような生徒たちは明らかに異常だ。 「クラブには行かない方がいいと忠告しておく。その上で、クラブ活動に今まで充てていた時間を少しだけ分けてくれないかというお願いだ。クラブが復活したら戻ってもらって構わないし、その為に俺も尽力する。ついでに、他の人に何かを教えるのもいい経験になると思うんだよ。イリーナとキリトって似てるし」 「どこがよ!」 「似てたって言い方になるけど。魔力量が全てだと考えていたところ」 ぐぅの音も出ない。 「……いいわ。とりあえず一回は保証する。でも、キリトが逃げ出したらそれまでだからね」 「もちろんだ。じゃあまた都合のいい時間を教えてくれ」 スタスタと2年生の棟へ帰っていくライヤの後ろ姿にイリーナはため息をつく。 「またどう考えても教師の領分を超えているところに手を出そうとしてないかしら」
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