職員寮での生活

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職員寮での生活

金髪蒼目。 グラビアアイドルみたいな完璧なスタイルを持ちながら、家でグータラしているだけで太りもしない女性の敵。 尚且つS級(クラス)。 「今日は、肉じゃがにしてみましたー」 「わーい!」 そしてとても家庭的。 「こんな家庭的で美人な物件は他にないと思うけどなー」 「自分で物件って言うのやめましょうよ先輩」 「やだなー、いつも言ってるじゃない。フィ・オ・ナでいいってー」 「今日のご飯もとてもおいしいです先輩」 むー、と膨れるフィオナ。 この人は能力は人一倍あるのだが、やる気が人一倍なく、家にいると就職しろと親がうるさいので楽な仕事を探していたところ、俺がここに1人で住むというのをどこかから聞きつけてきていつの間にか管理人の座についていた。 やる気を出せば大抵のことは出来るのである。 「まぁー、人を掴むにはまず胃袋からって言うしね。私の料理無しでは生きられない体にしてあげるよ!」 「それ言っちゃっていいんですか」 確かに先輩の料理はとてもおいしい。 姿も一応、完璧だ。 ただし、ニート。 「どうだった、初日は? かなり疲れてるようだったけど」 「どうもこうも、最初から分かってたじゃないですか。俺には荷が重いって」 「そうかなー? なんだかんだ上手くやってくると思ってたけど?」 ちゃぶ台のような机に両手で頬杖をつく先輩。 両腕に押し潰される胸がエロい。 「まぁ、サラッと俺の実力は見せてきましたけどね。王女に目を付けられるわ。あからさまに敵対視してくる奴はいるわ。まぁ、後者はいるだろうと思ってましたけど」 どちらかと言うと予想していなかった分、ウィルの方がたちが悪いと言える。 「敵対視してくるっていうのはー?」 「ゲイル・カリギューです」 「あー、カリギュー家の。それは難儀だねー」 一応先輩も貴族だからそこら辺の事情には詳しいらしい。 「あそこはかなり自分の地位に誇りを持ってるからねー。B級(クラス)のライヤじゃ、かなり嫌がらせを受けると思うよ」 「まぁ、そうでしょうね……」 「その点、私と結婚すれば晴れてライヤも貴族だからそんな心配は……」 「ごちそうさまでした! 美味しかったです!」 ごちそうさまで先輩の求婚をぶった切る。 ここまでが毎日のルーティーンのようなものだ。 「はい、お粗末様です。今からお風呂だよね? 背中流してあげよっか?」 先輩も慣れているので一々反応はしない。 ただ、そのお誘いだけはやめて欲しい。 そんなに胸を強調しないで。 流されちゃうから。 「遠慮しておきまーす」 今日も今日とて先輩の誘惑を振り切って自室へと向かう。 「はぁー……」 湯船に浸かり、1日の疲れをとる。 ちなみにこの世界はシャワー文化だが、自らシャワーを作って浴びるのが一般的だ。 まだ慣れていない子供には親がするし、魔法に縁遠い人たちには毎日、分単位でシャワーを作ってあげるという職業もあるくらいだ。 だが、俺は湯船に浸からないと気が済まなかったので先輩に自室のバスタブを改造していいか聞いたところ、1発OKだった。 気になった先輩が1度入りに来たのだが、それからはまって時々俺の部屋にお風呂に入るようになってしまった。 風呂上がりの先輩は普段以上に刺激が強く、俺は管理人の部屋にも作るように言っているのだが、全く作る気配がない。 「えっと、S級(クラス)の授業は……」 頭の中で明日やることをシミュレートする。 他の級(クラス)であれば文字の読み書きなどからやるのだが、S級(クラス)の貴族や王家の子供たちはそんなもの当たり前にできるのでカリキュラムに含まれていない。 というかまず、カリキュラムがない。 S級(クラス)の生徒をどう伸ばしていくかは、担任の先生に一任されているのだ。 はぁ、荷が重い。 「みんな才能はあるからなぁ……。S級(クラス)だから当たり前だけど」 何を教えればいいのだろうか。 そんなことを考えながら長風呂し、寝て起きたら遅刻寸前だった。 「やっば!!?」 2日目から先生が遅刻はシャレにならん。 飛び起きてパジャマからいつものフード付き白ローブに早着替えし、寝ぐせもそのままにブーツを履いて部屋の外に出る。 昇降洞をほぼ自由落下し、風魔法を使って寮からも飛び出る。 「いってらっしゃーい」 「行ってきます!」 あまりの速さに先輩の「いってらっしゃーい」にドップラー効果がかかっていた。 何とか始業2分前に教室の近くに到着する。 「はぁ、はぁ……」 なんか腰が重いなーと思ったらお弁当袋が吊り下げられていた。 手紙が付いていたので読むと、先輩の丸文字で書かれていた。 ーどうせ、寝坊するだろうからと思って、お弁当と一緒に朝ごはん用のおにぎりも付けておいたから。それ食べて頑張れ! あなたの妻 フィオナよりー 最後の行はともかく、こういう気配りは本当にありがたい。 あの速さの俺に弁当を括りつけるとは、ニートでも流石S級(クラス)。 だが、なぜ起こすという選択には至らなかったのか。 流石に今から食べる時間はないので、おにぎりと一緒に手紙もしまいながら教室に入る。 「おはようー」 「おはようございます」 「おはようございますー」 「……おはよう、ございます」 返事をくれたのはウィル、マロン、シャロンの3人だけ。 俺、泣きそう。 というかそもそも。 「ゲイルがいなくないか? 誰か知ってる?」 生徒たちはお互いに目を見合わせることなどなく、沈黙。 仲悪いし、知らないのね。 つまり、2日目から不登校。 終わった。 俺の教師人生は終わりました。 「……じゃあ、カリギュー家には後から連絡しておこう……。授業を始めるか……」 どうにかテンションを立て直せずとも突っ張り棒で支え、昨日考えて作ってきたものを出す。 「縄ですか?」 「縄だな」 俺が出したのは木に巻き付けて固定した縄。 それを机の上に立てる。 俺は教卓から生徒の机の方へ移動し、6人の視線が集まる中、火魔法を使う。 「今から、これをやってもらう」 俺は指の先に灯した火をフヨフヨと撃ち出し、縄のてっぺんに灯らせる。 「こんな感じで、弱い火をゆっくりあの先に点けるんだ」 「それをして、何の意味があるんですか?」 「デラロサ、いい質問だけど、俺はこう言おう。やればわかる」 1分後。 「な、難しいだろ?」 俺の作ってきた縄たちは1つ残らず消し炭になっていた。 これは先は長いぞ……?
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