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逆家庭訪問
教師生活が始まってから早くも1週間が経った。
特に変わったことしかなかった。
ゲイルはあのまま不登校。
毎日安否確認に行き、毎日病気ではないという事だけ聞かされて帰るという謎の日課が生まれた。
全員が授業で縄を炭にし、帰ってから自主練で炭にするので家では縄をこねくりまわしていることが多くなった。
ただ、みんな少しずつ成長しており、消し炭から炭になっている。
大差ないと言われればそれまでだが。
本日は前の世界で言う日曜日。
こちらでは安息日とされているが、お店は通常通り営業しているのでこの呼称は少し紛らわしいのではないかと思っている。
俺の予定は、ただひたすらに寝る。
それだけだ。
外に出ろと言われても嫌だとお答えしよう。
今日は休む日なのだ。
遊びに出る日は決して休みの日ではないと俺は主張したい。
だって休んでないじゃん。
それは遊ぶ日じゃん。
体力使ってるじゃん。
要するに、面倒なのである。
コンコン。
予定通り2度寝どころか4度寝に入ったところで部屋のドアがノックされる。
ちなみに間取りは2DK と一人暮らしにはもったいないほどなのだが、俺は玄関に近い1部屋しか実質使っていないので奥にいたら聞こえない音も聞こえる。
ちなみに、眠りは深い方なので本来ならノックの音など聞こえるはずがないのだが、ちょうどレム睡眠の時だったようだ。
出るかどうかは別だが。
「私だよー。ちょっと開けてくれるかな?」
フィオナか……。
どうせ「買い物がてらデートに行こうよ!」とかだろう。
だが、残念、俺は寝ているのだ。
俺は寝ている……、俺は寝ている。
「早く開けてくれないとここのドアぶち抜くから部屋の中が大変なことになるよー?」
なに物騒な事いってるんだあの人。
渋々快適な布団を離れ、パジャマ姿で玄関に立つ。
1年中春のような気候なので朝晩は冷える。
よって半そでのパジャマであったかい布団に入るのが格別なのだ。
ちなみにこの世界にはパジャマ文化もなければ布団文化もないので諦めていたのだが、冗談半分でフィオナに頼んだところものの数日で作ってくれた。
制作費用と人件費まで含めて妥当な金額を払ったのに、フィオナは今も時々この恩で結婚しようと迫ってくる。
「はーい?」
髪もいつも以上にぼさぼさで、よれたパジャマのままドアを開ける。
「ほら、やっぱり起きてた。お客さんが来てるよ?」
「起きてなかったら本当に先輩はドア吹っ飛ばしたでしょう……。ん? お客さん?」
「うん」
服の中に手を入れて、お腹の辺りをかいていたのだが、その手をはたと止める。
よく見れば、フィオナの奥に真っ赤になって顔を手で覆っているものの、指の隙間からこちらを見ているシャロンの姿があった。
「お見苦しいものをお見せしまして……」
「ぁ……、いえ……、けっこうなお体でした……」
「なんだその聞いたことない賛辞は……」
とりあえず引っ込んで急いで普段着代わりの白ローブに着替えたのはいいが、なんとも気まずい。
会って1週間の9歳の幼女にお腹を見せつけていたのだ。
不快ではなかったようだが、多少ぎくしゃくしてしまうのは仕方ないだろう。
「今日はどうして来たんだ?」
気を取り直してシャロンの用件を聞く。
初日から俺のところに来そうではあったからな。
何か用事があるのだろう。
「ぁ……、あの、おばさんに、言われて……」
「おばさんに?」
はて、シャロンの親の世代に姪を挨拶に行かせるほど俺のことを知っている人がいたかな。
「ちなみに、その叔母はどなただい?」
「えっと……、お后様です……」
「うん?」
「ぁ……、あの、王様の、奥方様です」
はい?
ちょっと理解が追い付かない。
整理しよう。
シャロンの叔母がお后様?
アンやウィルはお后様の娘だよな。
王女だし。
ということは、アンやウィルとシャロンの関係は、なんだ?
いとこ?
だが、しかし。
シャロンをここに送ったのがお后様なら頷ける。
平民ごときがと言われるかもしれないが、アンを通じて交流があるからな。
王様と違って表舞台に立たないので、面と向かって話したことがある人は限られるのではないだろうか。
ただ、誰に言われて来たのかは解決しても、なぜ来たのかが解決していない。
「おばさ……、お后様はなんておっしゃっていたんだ?」
「えと……、『ライヤ君ならあなたを任せられます。信用も置けますし、彼は今やこの国随一の使い手ですからね。仲良くしていただきなさい』って、言って、ました……」
口調の真似うま!
しかもお后様のセリフのところは噛んでないし。
かなりはきはきとしゃべっていた。
本当に自分の意見を主張するのが苦手なんだな。
「しかし、仲良くしていただきなさいって言ってもなぁ……」
この世界、別に教師と生徒がプライベートで会ってたからと言って何もないのだが。
日本の倫理観が残っている俺はちょっと抵抗がある。
そもそも、仲良くするってなんだよ。
「お后様から何も聞いてないのか?」
オーダーメイドの畳の上のオーダーメイドのちゃぶ台の前にちょこんと女の子座りしているシャロンはフルフルと首を横に振る。
どうしたものか……。
シャロンは話を振られない限り自分からしゃべろうとすることはほとんどないので俺が話題を振らなければ無言の時間が流れる。
このままでは埒が明かないな。
「ちょっと街にでも出てみるか?」
コクコクと頷くシャロン。
「よし、じゃあ、行くか」
俺が立ち上がると、シャロンも続いて立ち上がろうとするが、イス文化のこの世界で慣れない女の子座りをしていたこともあってバランスを崩す。
「あ……!」
「あぶなっ!」
正座に近い座り方だから足が痺れたのだろうか。
咄嗟に受け止めたのはいいのだ。
自分の反射神経を褒めたい。
ただ。
フニュッ。
受け止める際に俺のイケナイ左手が9歳にしては豊かに発達しすぎているシャロンの胸を捕まえてしまったのだ。
「ひゃっ……!」
「だ、大丈夫か?」
妙な反応は逆にしない方がいいという判断を脳が下すまでコンマ3秒以下。
少し詰まったが、シャロンの心配をしているように演じる。
やり過ごせ……。
やり過ごすんだ俺……。
左手の感触を忘れるんだ……!
「ぁ……、はい、ありがとう、ございます……」
シャロンも真っ赤になっているが普通にお礼を言ってくる。
これで大丈夫なはずだ……!
だから帰ってこい左手の感触……!
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