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「わたしだって。わたしだってね」
フユシマは、女の子の顔をして、青空につぶやいた。
「ひとのように生きたいの。ひとごみに、上手に、流されたい。ただ、それだけなのに。こんなはずじゃなかったのに。こんなふうに、大勢のなかで、寝返り、打ってらんない」
「フユシマ、フユシマの人生は、こんなはずじゃなかった、なんて、そんなの、ないよ」
ぎゅっとしぼったみたいに、フユシマは、顔をゆがませて、瞳を赤くさせた。
「私、女の子、好きなの。昔から、好きな女の子の男を奪って、興味を持ってもらうことしか、やり方がわからないの。バカでしょ。呪われてんの。結婚なんかしないよ。女の子とキスしたいし、エッチだってしたいよ。フユシマのこと、一目惚れだったんだから」
「でも、あんたに好かれたって、わたし、さびしくて、しょうがないよ」
私は、フユシマの目じりからしずくがあふれる芸術を、息をのんで見つめた。
「うん。わかる。だから、もうやめよう。私ももう、嘘つかないよ。だから、フユシマも、焦らないでいいよ。フユシマはさびしくなんかない。フユシマ、誰も、この世の誰一人も、フユシマはねたまないでいい。フユシマは、生きているだけで、特別なんだよ」
私は初めてフユシマを見たときに訪れた神様の興奮を、ふたたび身体中に感じた。
「フユシマはそのままがいいの。私のこと、ゆるさなくていいから。だから、もうそんな顔はやめて」
かわいくて、儚くて、壊れそうで、今にも死にそうで、どこか棘があって、でも、その鋭さを頼りに、立っているようなひと。
私がフユシマに惹かれたのは、そんな危うさを持ちながらも、人混みから、自分の姿から視線をそらさない、そんなつよさがまぶしかったから。
私はずっと、フユシマを追いかけて、それで、あの愛が息絶える音の恐怖にも強がることない。
私たち、おそらく、二人とも、どうしようもないけどさ。
それが、途方もなく、無性に、嬉しかったな。
「フユシマ、生きよう。ね、」
私とフユシマは、熱をたくわえたコンクリートの上、スーツ姿の大勢の視線の弓で血を流しながら、抱き合った。
どこかの誰かが連れてきた警察官に、腕をつかまれてはがされるまで、私とフユシマはながく、そうしていた。
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