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フユシマとは、二か月前に渋谷のクラブで出会った。
私が連れと一緒にカウンター席で舌が乾くようなテキーラをすすっているとき、ふと、こちらに熱い視線を飛ばすひとりの少年と目が合った。
その佇まいは、内臓が重く響く混雑の中、ひとりはぐれたような危険性を持っていた。
私はこちらを見つめ続ける少年の放つオーラの、その素性に吸い込まれるように惹かれた。
ほんとう、彼に恋をしたことには理由なんてなかったのかもしれない。
ただ、この人は、私のことを好きになったりしないだろうな、という確信があった。
トイレついでに、彼を問い詰めてみると、やはり、私を見つめていたわけではなかった。私の連れに一目ぼれしたという。
私は彼の、意志のつよいキリリとした眉や、恥ずかしさを噛みしめる唇などにそそられた。
もう一度会えるか、彼に尋ねた。彼はわからないと答えた。でも、私の連れには会いたいと言った。
私はそのままひとりで騒音クラブに通うことにした。
彼もまた、私の連れに会えるのではないかと勘違いして、混沌としたクラブに通い詰めた。
しばらくして、アルコールと爆音の力を利用し彼と親交を深めた私は、さらに私の連れを生き餌にして、彼に一方的な不倫をはじめることにした。
私とつるめば、いずれ例の連れと接点が持てると夢を見ている彼は、純朴でさらに可愛かった。
あまりの愛おしさに、私は寝起きのフユシマのほおを撫でた。フユシマはそれを手の甲で振り払った。
とんがった拒絶を肌で感じた私は、フユシマの汗の染みたベッドから降りて、自分のカバンの中をまさぐった。フユシマはそれを興味深そうに見ている。
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