別れのない国との別れ

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別れのない国との別れ

東洋に浮かぶこの小さな島国には約三七万平方メートルの面積に百二十億万人もの多種多様な人々が暮らしていた。そしてこの国に暮らすほぼ百パーセントの人は別れを嫌い拒み、この国に移住して来た人々で、現在も毎月数十万人もの人が世界中からの移住して来ている。この国は条件を満たす事が出来ればどんな移住希望者を一切拒まないのだ。移住希望者は多額の税金や移住金、寄付金、ワイロを支払い是が非にもこの国の住人になるのである。 この国では不思議な事に人がいつまでも未来永劫幸せに暮らしていける。どういう事かというとこの国には破局も死別も絶交も存在しない。もちろん離婚も仲違いも無いし、喧嘩や醜い争いさえ起こらないのだ。それ故に世界中から別れを恐れ嫌う人々が常に移住を希望し、移住して来ているのだ。どんなに激高している人がこの国に来ても不思議と怒りの感情や負の感情は消えさり、さらにそれらの感情はこの島では一切生まれない。皆が穏やかに、ゆったりほのぼのと暮らしているのだ。一応警察や裁判所と言った行政機関もあるのだが、出来てから今まで一度も機能した事はなかった。 これまで世界中の数多の研究所や機関がこの国の隅々に渡り様々な調査をしてきたし、現在も研究や調査が行われているが、何故この国では人が不老不死で怒りや妬みなどの負の感情を持たないのかの原因は何一つ分からず、不明のままなのだ。この国に暮らす最高齢の人物はこの国に生まれ、この国で育ち、現在三百歳を超えていているのだが、今も若い頃の姿のまま元気に暮らしている。記録の無い彼女以前の人が存在するのか、仮に居てもどうなっていたのかは今となっては知るすべもないのだが、彼女以降に産まれた人は今も全員健在で健康で元気に暮らしているのだ。 この日はこの国では数少ない“別れを恐れていない”数人の役人が議事堂で定例の会議を行っていた。議題はいつも大体決まっていてこの日もいつもと同じであった。 「皆も承知の通り、この国は別れが無いから人が人が増え続ける一方で、この国はもう人でパンパンなのだ。そこで今まで自然保護の観点から埋め立てを見送っていた北地方の埋め立てに着工しようと思うのだが、どうだろうか?」 「名案だ。」 「素晴らしい決断だ。」 「そもそも我々も自然の一部だ。」 「それに今以上に埋め立てを進めていけば国土も広がり雇用も増えて一石二鳥だ。」 「そうすればさらなる経済の発展と利益が生まれて、念願の“世界一幸せな国ランキング”も上昇するだろう。」かくして定例の会議は簡単に満場一致で閉会した。会議はいつもこの調子で五分ほどで議案が可決し、必ず満場一致になり可決される。これもこの国の効果であったが、誰一人として知る由も無いのだった。 この国には至る所に高さ五百メートルを越えるのタワーマンションや超超高層ビルが無数に立ち並んでいる。さらに現在も多くの超高層建築が計画、建設中なのだ。この国に住む約七割の人は建設関係や建設作業員として働いていて、自らやこれからの移住者の為の住居やショッピングモール、娯楽施設などの建設に携わっている。この国の経済は移住者を受け入れ始めた十年前から急成長を続け、三年前からは世界一となり、今も世界一を更新し続けている。国は国営の建設事業や住人や移住希望者から得られる莫大な税金やその他の資金によって潤っていた。姿こそ昔の古き良き姿から大きく変化しているが、この国で皆が未来永劫が幸せに暮らしていけると誰もが信じてやまなかった。しかし、そんな新たな国土倍増計画が決定し、来月からいよいよ工事がスタートしようとした初秋の昼下がりにこの小さな島国は増え過ぎた人々が暮らす為の建造物や人工物の重さ、無謀な埋立や突貫工事に耐えきれずに轟音とともに一瞬で沈没してしまったのだった。
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