嗤う痴漢

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「さあ、次の駅で降りて!」  そう叫ぶように言うと、男は薄ら笑いを浮かべた。 「聞いてるの!? どうして、こういうことしたの!」  私は怒りに任せてまくし立てた。男はと言えば何事もなかったかのように笑みを浮かべながら私を眺めている。 「さあ、何でだと思う?」  私は閉口した。  男は高そうなグレーのスーツに身を包んだ、清潔感のある男だった。多分、どこか大手の会社のエリートサラリーマンなのだろう。  地位と、財産を持ち、守るべき家族すらいそうに感じる。  どうして、こうも平然としていられるのだろう。私は痴漢として男を捕まえている。普通は、冤罪だと騒ぎ立てるものではないのだろうか。  周囲の乗客の目が、次々と私と男を映していく。
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