ツクリモノ

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 ベットリと血がついたベージュのハンカチに視線を落とす。勝手に事件性を疑いはじめていた美穂は、拒むのも騒ぐのも望ましくないと判断し、男に促されるまま車に乗った。 「目隠しをしてもらうので」  感情を押し殺したような男の声。なぜかその声で美穂は冷静さを取り戻した。 「ちょっと待ってください──何かの勘違いじゃない? 私、何もしてませんよ。このハンカチだって私のじゃないし──」  男の顔が美穂の耳元にヌッと迫り、「黙って従ったほうが身のためです」と耳打つ。不快な男の生温かい息。無駄な抵抗は控えたほうがよさそうだと、美穂は覚悟を決めた。  視界を奪われたまま車を降り、慎重に歩くよう促される。自動ドアが開くかすかな音。少し歩くと、今度はドアが開く音がした。パンプスから伝わる足元の材質が変わる。きっとどこかの一室に通されたのだろう。男に両肩を沈められ、美穂は椅子に腰をおろした。背後から目隠しを外されると、そこは殺風景なオフィス。美穂と男以外は誰もいない様子だった。 「笠谷美穗さん。あなたが手にしているハンカチについている血は、殺人事件の動かぬ証拠なのですよ」  男が急に口をついた。 「あの──だから、これ拾ったものなんです。通勤中の人ごみの中で、サラリーマンの方が落とされたもので──」 「嘘をつかれちゃ困るなぁ」 「嘘もなにも──」  ハンカチを強く握りしめていたせいか、美穂の手のひらが血でうっすらと染まっていた。
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