ツクリモノ

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ツクリモノ

 天を仰いでも、あなたは手を差しのべてくれない。そして、私の世界は破壊される。所詮、私は作り物だから。  飲みすぎた昨夜の飲み会。酔った余韻を引きずる身体が重い。ローヒールのパンプスで来ればよかったと、笠谷美穗は少し後悔した。  二度寝からの慌ただしい身支度。乗り過ごした電車。満員の車内に揺られながら、吐き出されるようにホームへ。中年男性の提げる重いカバンが腰に当たり思わず舌打ちする。  T橋駅では大量の人が下車する。オフィスビルばかりが立ち並ぶこの街に、娯楽目的で訪れる人などほとんどいない。みんな、取り憑かれたように職場へと向かうだけ。 「やばッ……遅刻かも」  腕時計に目をやり焦る。人ごみを縫うように小走り。商社に勤める美穂は多くの部下を抱える管理職という立場上、遅刻は許されない。他人の舌打ちを浴びながら、肩をぶつけて強引に前へと突き進む。  陽気におしゃべりするリクルートスーツの女ふたり組を追い越した時だった。美穂の前を歩くサラリーマンのポケットから、ハンカチが落ちた。 「あの──ハンカチ落としましたよッ!」  反射的にそれを拾い上げ、男性を呼び止める。しかし、雑踏の騒音が邪魔して声が届かない。男性は立ち止まることなく進んでいく。 「ハンカチッ! 落としましたよ!」  さらに声を張り上げるも、男性は気づかず。ふと、手にしたハンカチに視線を落とした美穂は、人ごみの中で立ち止まった。 「血……!?」  美穂が拾ったハンカチには、ベットリと血がついていた。生々しく赤黒い血。うまく事態が飲み込めない。急に立ち止まったことで、後ろを歩く人たちにぶつかられ、よろめく。しばらく呆然と立ちすくんでいた美穂の周囲には、人がまばらになっていた。  この血の量は明らかにおかしい。何かの事件かもしれない。ハンカチの持ち主が犯人だってことも充分にありえる。  不気味な血が掻き立てる想像を頭で巡らせていると、誰かが美穂の肩を叩いた。そこにはスーツ姿の男。目が合うと男は美穂に耳打ちした。 「事務所まで来ていただきましょうか」
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