スターターピストルは鳴らさない

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 地下鉄駅構内、両手にパンプスを握りしめて、通路を一直線に睨み付けているOLがいる。ただならぬ殺気を放っていて、もし目の前に人が通ろうものなら、そのパンプスで殴り倒すかもしれないし、ホームだったら進入してくる電車をぶっ壊すかもしれない。髪の毛は乱れ、口唇を噛み締め、肩で呼吸している。  うわ……危ねー奴いる。絶対に目合わせちゃだめだ。と思いつつも、ジロジロ見て終電が迫るホームに急いだ。  あのOLなんなんだ?野性的というか暴力的な凄みがあったけど。仕事で大失敗したのかな。それとも婚約中の彼氏にフラれたとか?終電は間に合ったのだろうか。なんでパンプス握って裸足だったんだろう。謎だ。明日、新聞とかニュースになってたらどうしよう。『眼光鋭い女性、大手町駅地下通路で錯乱!手にはパンプス』  俺が止めるべきだったのかもしれない。吹けば飛ぶような責任感がぼやぼやと立ち込めたが、ネットサーフィンした瞬間に消え、土日にはOLのことなど忘却の彼方だった。
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