色なき風の頃

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「先生、あの…代が変わりましたけど、一寸抜けるタイミングが合わなくて来てますけど、いいですか?」 「ああ?そうか。早橋、俺が引っ張り込んだっけ。3年抜けて人数減ったし、俺らで回るっちゃ回るけど、おまえ、なんか人望厚いし?毎週でなくても来てくれれば助かる」 「そうですか…人望は別に厚くないですけど、じゃ、ヘルプってことで…」 「おお、子供らもおまえには話せるってこともあるだろうしなぁ。ボランティアで悪いが」 「偶にご馳走になりますよ」 「おお」 山瀬先生は厳しいけれどラフな感じがいい。規律違反、遅刻、成績不良にはうるさい。 「けつバットだ。体罰とか言うなよ」 と、プラスチックバットでポンと叩く。 細かく、神経質タイプの監督とは対照的だが、いいコンビだと思う。 先週、片付けた教官室は、なんだか、また散らかっていた。 此処に出入りするのも悪くはない。 グランドの土の匂いを感じていられるのは幸せだ。 ずっと、見ないように、目を背けて来たくせに、そんなことに幸せを感じるなんて、僕も大概虫がいい。 涼也は…もう土の匂いはしないのに。 12月迄のスケジュール表を貰って帰った。 秋は学校行事も多い。他校からの招待試合も幾つか入っている。 高二の今頃が一番楽しい。 楽しいはずだった…。 思い出すと、また胸が苦しくなる。 あの時、肩も肘も壊すことなく、最後の夏まで普通に過ごして居たら、どうだったのだろう。 涼也との関係も、拗れることなく、何もなく、ただのバッテリーのまま居られたのだろうか。 ただの…。
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