色なき風の頃

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二人の家に行くのは二度目。 一度目は、客としてやって来た柊木塁に、いきなり車に押し込められ、涼也は渡さないと言われて、過呼吸で気を失った。 思えば、なんて情けない話。 久しく、過呼吸なんて起こしたりしなかったのに、涼也に会って、それからだ。余程のショックだったのか、ふわふわしていた処に、いきなり、強い目の光、強い言葉、強い力に踏みつけられたようだった。 それで、一人さんと桜間さんが生活を共にして居ることを知ったわけだけど、二人が、寄り添っている感じ。 触れそうで触れない空気感。 いつか求めて、求められる日が来るのを静かに待っているような…。 平穏という言葉が合っている感じは、僕にもよくわかる。 羨ましいような、苦しいような…。 玄関には灯りがついて、一人さんが、「ただいま」と言うと、 「おかえりなさい」と声が聞こえ、桜間さんの笑顔が覗いた。 「早橋君、いらっしゃい。久しぶり。早かったね」 「電気代の節約」 「また、んなこと言って、カズさん、予約待ってちゃダメだって言ってるじゃないですか」 「帰って来るなり、お説教?モデル連れて来てやったのに」 「そうだった。早橋君、ご飯食べながら、一寸お願いがあるんだ」 そう言って微笑んだ。
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