色なき風の頃

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誰も居ないグランドに、スプリンクラーの水飛沫が土の色を変えて行く。 まだ、十分明るさを残した日差しの中を赤とんぼがつつーっと連なって飛んでいた。 頬を撫でる風に逆らいながら。 「さはしぃ。早橋っ。テキトーでいいぞぉ」 教官室から、山瀬先生の大声が聞こえて来る。 片手を挙げて応えてから、暫くグランドを見つめて戻った。 「おぅ、ありがと。助かったワ。悪かったな。ショックの余りおまえに連絡するの忘れてた」 「いや、一斉メールで負けたのわかったんで、今日は休みかなぁとも思ったんですけど、先生のことだから、練習するに決まってるだろ。って言うかと思って」 「それな。そのつもりだったけど、そっちが休むか。って言うからさ」 そう言って、監督の机の方を顎で示した。 秋季大会3回戦。0行進で延長か?と思われた最終回、まさかのホームランで1-0惜敗。 夏の終わりは秋の始まり。 秋が終われば春は来ない。 また夏を待つのだ。 球児達の一年。 長く短い…。 甘く苦いアオハルを抱きしめたままの僕が過ごす長い長い一日。 指折り数えていた。 水の飛沫が作る虹の向こうにやって来る約束の日を。 手が届くと思っていた。 虹を掴めると。 浅はか…。
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