色なき風の頃

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台風一過。秋晴れの休日。 今日は課外授業の為、部活は休みだと連絡があった。 急に手持ち無沙汰になった気がして、グランドに出掛けて行くのが当たり前になっていることが、少し可笑しい。 ドライブがてら、ウェアでも見に行くか…と車に乗った。 こんな休日、涼也が居たら…。とついそんなことを考えてしまう。 あの日、大事な物だから持っていて。 と手渡された紅いガラス。 小さいけれど、厚みが2センチ近くあって、花びらのような、歪なハートのような形をしていた。 ペーパーウエイトか?光にかざすと、紅の中に深い紅が何層にも重なっているのがわかる。 大事な物…。 大事な人…。 涼也にとって、 柊木塁は大事な人なのだろうか。 僕なんかよりもずっと…。 好きだと言わなければ良かった。 SEXなどしなければ良かった。 大事な物など受け取らなければ良かった。 そうしたら、こんな苦しくならずに済んだ。 いつも、ずっと想っていて、でも、ただぼんやりと、大切にしまっておくだけで良かったから。 いつか、忘れる、 涼也も忘れている…かもしれない。 多分、それでもいいと想っていたのに。 ふわふわとした存在が、急にはっきりとした輪郭を持って、手の届く、息のかかる、すぐ側に戻って来た。 戻って…来た。 僕の所に…。 それは錯覚だった? ずっと、苦しくて、痛い。
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