色なき風の頃

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紅いガラスは、ベッドの下の小箱にしまった。 中学からの涼也との思い出と一緒にするのは、少しためらわれたけれど、目にする度に、信じる気持ちが揺らぐ気がした。 9月2日という日を、涼也も忘れずにいてくれて、10年目の9月2日が、また新しい二人の記念日になるのかもしれない。なんて夢みたいなことを考えていたけれど…。 キャンセルされたら、その日はいつもと変わりない日常に紛れてしまった。 最終回に、押出しフォアボールで逆転負けでもしたみたいな、そんな感じを引きずってしまいそうで…。 涼也のことも、柊木塁のことも、少し忘れてしまおう。 大丈夫。 ずっと、そうだったのだから大丈夫。 「理央ぉ、居るのぉ?」 階下で母さんの声がした。 いつの間にか、部屋の中は薄暗くなっていた。 退屈な休日。
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