【短編】微笑みを、絶やさずに

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『行きつけなんですけど、その店の食パンが凄くおいしいんですよ』 フォロワーさんの誰かが、リツイートという形で紹介したのか。 文字通り、「独り言」とも言えるそのツイートは、Twitterの「タイムライン」と呼ばれる場に突如といった感じで舞い降りてきた。 Twitterにおいて遥香は、極力自分の好きなアーティストのファンのアカウントのみをフォローするようにしている。 その為、アーティストへの愛に溢れたツイートで構成されているタイムラインに割り込む形で現れたそのツイートは、どこか“不純物”といった感じがした。 しかし、「食パン」という普通ならまず推される事がないパン。 そして、併記されていた「○○駅の近くの~」という店の場所や、貼られた画像の雰囲気から、会社の近くなのではと、推察した遥香は 『フォロー外から失礼します。 そのパン屋の食パンって、本当においしいんでしょうか?』 と、リプライを送ってみた。 数分待った後、ツイートの主から返事が返ってきた。 『おいしいですよ。 僕、よく買って帰りますから。 イートインコーナーも併設されていて、会社帰りとかにそこで一息ついたりしているんです』 その後、改めて店の場所がツイートに書かれていたが、遥香が思った通り、そのパン屋は会社の近くであった。 「このパン屋、確かに見たことはあるけど、そこまでおいしいってのは意外だったな……」 家から会社。 そして、会社から家、というルーティングのような日常に何かしら変化が欲しいと思っていた遥香は、ツイートの主に 『ありがとうございます、今度機会があれば行ってみます』 と、返答すると、Twitterを閉じた。 「つーか、クロワッサンとかメロンパンならまだ分かるけど、食パンって……」 スマートフォンを充電し、床につく際、その突拍子のないツイートの内容がツボに入ったのか。 ベッドの上で遥香は一人、ふふふ、と笑い声を上げた。
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