【短編】微笑みを、絶やさずに

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朝食として食べた、コッペパンとクリームパンは、遥香が想像していた以上に美味しいシロモノであった。 コッペパンは塩加減が絶妙であり、表面とは対照的な中身のモチッとした食感がたまらない。 そして、しとやかに自己主張するクリームパンのカスタードの甘味も、遥香が愛飲しているアメリカンとの相性が抜群によく、すっかりとその味の虜になった遥香は、くだりのパン屋を紹介してくれたツイートの主に 『先日、紹介していただいたパン屋に行ってきました。 残念ながら食パンは売ってなかったんですけど、他のパンも絶品でした! 素敵な店を紹介していただいて、ありがとうございます!』 と、思わずお礼のリプライを通勤電車内で送ってしまう程であった。 すると、ツイートの主も気をよくしたのか。 『ありがとうございます。 食パンは昼までに売り切れてしまうので、お時間があれば土日にでも買ってみてください。 他のパンもおいしいんですが、食パンはそれ以上ですよ。 マーガリンじゃなく、バターを塗って食べれば今までの食パンの価値観が変わりますので、是非』 と、すぐさまリプライを返してきた。 「なんか、凄いハードル上げてきてるけど、ここまで言うって事は凄く美味しい食パンなんだろな」 ツイートの主の返信を読み終え、期待値を膨らませた遥香は、早速その日の休憩時間。 同僚である女子社員の食事の誘いを振り切り、一人例のパン屋へと足を運んだ。 しかし、食パンはまたもや売り切れであった。 「すみません、ちょうど今さっき、売り切れたばかりで……」 昨日、応対をしてくれた自分と同年代の女性の店員が、前回同様眉を八の字にさせながら頭を下げてきた。 ――やれやれ、本当に人気なんだな。 遥香は肩をすくめる。 しかし、そこまで人気であるのなら、遥香は是非ともその食パンを食べてみたいと思った。 「分かりました、ありがとうございます」 遥香は店員に謝辞を述べると、目的を食パンからイートインコーナーでの食事に切り替え、陳列棚へと歩を向けた。 とりあえず、トングで明太子パンとクロワッサン一つを掴み、それらをトレイへと載せる。 そして、サラダとコーヒーのセットを注文すると、遥香はカフェテリアに行き、窓際にあるカウンター席にゆっくりと腰を降ろした。 額に汗垂らしながら、早足で歩いている営業マン。 せっかちに荷物を運ぶ、青い横縞の運送業者。 談笑しながら通り過ぎていく、二人組のOL。 窓というスクリーンに映し出される、悲喜こもごもの都会の群像劇。 コンクリートジャングルという舞台で繰り広げられるその群像劇を見ながら食べるパンは、遥香が思った通り期待値を上回る格別な美味しさであった。 「クセになりそう……」 遥香は顔をほころばせると、コーヒーを一口飲む。
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