剣葬

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 祭りでもないのに町内はススキ野原のように人が道を埋め尽くしている。信綱の意思とは無関係に、人混みが作り出す流れに運ばれて、仕組まれていたかのように、とある女との再会を果たす。  信綱が求めたのは己の剣をさらなる高みへ導く強者との試合。それを導く女だった。  女の名前は雛菊(ひなぎく)。信綱と同じ20歳で、同じ村の生まれだった。  気づいたのは雛菊の方が先。人混みの流れに逆らって、怒鳴られたって構わずに、人を掻き分けてきた。雛菊にとって信綱は実らなかった初恋の相手。 「もしかして、私を探しに来てくれたの?」 「いや、強い奴を探しに来た」 「・・・変わらないね」  二人が離れ離れになったのは4年前。武者修行のために信綱が村を出た時だった。  出立を霧が立ち込める早朝の時刻を信綱は選んだ。雛菊を避けるためで、引き止められたくなかったのだ。信綱にとっても雛菊は初恋の相手だった。  街道へ繋がる二股の道がある。そこには大人の背丈ほどの岩があり、いつ通るかわからない信綱を、夜のうちから待っていた雛菊がいた。足元には背負えるほどの荷物が入った風呂敷がある。ついていくつもりだった。 「どこへいくつもり」  現れた信綱に問いかけた雛菊。どこへ行くかなんて大した問題ではない。求めていたのは、一緒に行こうって言葉。 「強い奴を探しに行く」  小さな村の道場で、信綱に敵う相手は大人にもいなかった。神童だってはやし立てられ、天下にその名を轟かせろなんて、村人たちは武者修行に好意的。  信綱の力が世の中にどれだけ通用するのか見てみたいのだ。それは雛菊も同様の思いだった。その邪魔はしたくない。だから、付いて行きたいなんて言えなかった。  信綱の背中が消えるまで見送って、足元の風呂敷をバカヤローって蹴飛ばした。
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