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「どうですか?」 塔太郎が窺った瞬間、彼が苦しそうにうずくまる。その手から空の瓶が滑り落ち、軽い音を立てて転がっていった。 塔太郎も大も寄り添おうとしたが、二人の襟首を辰巳大明神が引っ張った。 「触んな、触んな。今、御神水が浄化してるんや。靄の正体、出て来よるぞ」  その言葉通り、輝孝の頭から彼とは全く違う唸り声がし、何かが一気に追い出された。濃い灰色の靄である。 靄は広場の中央付近に降りたかと思うと地面すれすれの位置で渦巻き、粘土質となり、龍の形となっていく。 苦しむように唸っていた粘土の龍は、輝孝を見つけた途端に威嚇し、大口を開けて突進して来た。 「塔太郎」 「はい。ーー全員、下がって!」  辰巳大明神が顎でしゃくると、塔太郎が応える。舞殿を横切って龍と対峙し、雷の拳が繰り出された。一瞬の閃光と轟音が、奥宮を揺らした。 迎え撃った塔太郎の突きは龍の口へと直撃し、たった一発でも強烈な雷が全身に行き渡ったのか、龍は反撃する間もなく爆発した。奥宮の神聖な空気に清められたのか、飛び散った欠片は、霧散して消える。 やがて、辰巳大明神が拍手する以外は、静けさが残るだけとなった。
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