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塔太郎は慣れている光景として辰巳大明神は見ずに窓の青もみじを楽しんでおり、輝孝は逆に凝視していた。 その視線に気づいた辰巳大明神が、時折こちらを見ては、自慢げに鼻を鳴らしている。 「飼い主役、お疲れ。旦那様は相変わらずやなぁ」 大に気づいた塔太郎が、旦那様とこちらを交互に見やる。 彼は大をここまで連れて来た事をすまなく思っているのか、顔を合わせるなり、少しだけ眉尻を下げていた。 「ごめんな、大ちゃん。近場の水巡りと思って誘ったんやけど、遠いやろ? 帰り、大丈夫か?」 「全然! 気にしないで下さい。輝孝さんの力になりたいと思っていますし、それに私、貴船神社に行くのは初めてで、実は少し楽しみなんですよ。ガイドブックとかでよく見ますけど、石段が有名ですよね」 「そうそう。俺も仕事で深津さんについて一回しか行った事ないけど、空気がほんまに綺麗やねん。そばを流れる貴船川も、水が透き通ってて。赤い灯篭も、写真通りにずーっと並んでんねん。赤と山の緑がよう映えてるから、縁結びのご利益ありそうやなぁって思ったわ」  貴船神社は水の神様であると同時に、縁結びの神様としても信仰を集めている。 その歴史は実に平安時代からで、和泉式部が夫との復縁を願い、成就したという逸話は著名だった。
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