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「縁結びって言うたら、大ちゃんはあの吊り革に触らんでよかったんか? あれも縁結びで有名なんやろ?」 「興味はありましたけど、電車に乗るなり、辰巳の旦那様がご所望でしたから……」  ハートの吊り革は、その見た目通り、縁結びとか幸運を掴めるとして人気である。 大も本心では縁結びを望んでいるのは間違いないにしても、その相手は、今まさに目の前にいる塔太郎である。 あなたなんです、と言いかけたのを、梨沙子の言葉を思い出してぐっと飲み込んだ。 お返しとして、大も尋ねてみる。 「塔太郎さんは、掴まなくていいんですか?」 「俺、男やで。勘弁してくれや」  やはりピンクのハートというのが恥ずかしいのか、彼自身、吊り革に興味はないらしかった。 ただ、その後は少しだけ饒舌になって、 「縁結びっていうたら、嵐山の野宮神社もそうやったし、清水寺の中の地主神社もそうや。六角堂もそうやったかな。京都は、縁結びの神社が多いな」  と、誰かを思い出しているような表情だったが、それが誰なのかは、大は問わなかった。 (こうして後輩としてついて行けるだけ、気遣ってくれるだけで、自分は恵まれてるんやから。たとえ好きなんは事実でも、もっと近づこうなんて……今は、思ったらあかん)  と、心の中で唱えるように念じながら電車に揺られ、「先輩」と一緒に青もみじを眺めた。  
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