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「……いち、ぜろ、さん……」
「え?」
「……番号です。いち、ぜろ、さん、よん……それが今、頭の中に浮かんだんです」
輝孝は囁くような声でもう一度、それを復唱した。
今までは彼自身の事だったのに、今回は番号。明らかに思い出すものの種類が違っており、重要な事柄であるのは明白だった。
彼の真剣な様子に影響されて、塔太郎が慎重に訊く。
「輝孝さん。何の番号かは、思い出せますか」
「……多分、日常的に使っていたものです。いや、これだけじゃない。他にもあって……」
「暗証番号ですか?」
「かも、しれません。でも、その四つは特に……っ……あかん、出えへん!」
「輝孝さん、落ち着いて下さい」
思い出した反動と焦りがぶつかったのか、輝孝が苛立つように頭を掻いた。
塔太郎が彼の手首を軽く引き、大も反射的に背中を撫でる。
困惑した雰囲気に他の参拝者も勘づき始めたので、辰巳大明神が半ば強制的に、その場をまとめた。
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