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錦天満宮に電話すると、菅原先生はすぐに出てくれた。 今までの経緯を報告し、辰巳大明神が言った魚の特徴を話すと、学問の神様なだけあって、 「ははぁ。分かりましたよ。小さくても、特徴的な魚ですからね」 と、すぐに答えを出してくれた。 「それはね、多分『ミナミトミヨ』じゃないかな。富士山の富に魚と書いて富魚(とみよ)、あるいは、止める水の魚と書いて止水魚(とみよ)と読みます。 昔、京都や兵庫にいて、昭和四十年代あたりで絶滅した魚なんですよ。まぁ、絶滅したというのは人間から見た話ですけどね。 ミナミトミヨというのは、湧水の近くの小川ですとか、水草の茂ったところですとか、水が綺麗で年間十五度くらいの場所で生きる魚なんです。 京都の記録だと桂川の周辺にいたとの事ですけど、彼らは繊細で、本流には耐えられないですからね。大昔なんかはきっと、桂川と鴨川の間の、水が綺麗で流れのない場所に棲んでたんじゃないかな。 小さくても背びれに棘があって、ちょっと海の魚に似てるんですね。だからかは分かりませんが、昔は「さばじゃこ」なんて呼ばれてたみたいですよ。……輝孝さんが、そのミナミトミヨなの? 凄いなぁ。実は人間に化けて、人間社会で生きてたんだね」 菅原先生との電話が終わった後、案の定、輝孝は困惑と言うよりは最早青い顔をしており、 「僕が魚なんて、実感がありません」  と、胸や二の腕、腰回りなど、自分の体を確かめていた。 「ミナミトミヨ」も「さばじゃこ」も、大や塔太郎にとっては初耳だった。
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