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「まさか、神様のお力に耐えられへんで、消えたなんて事は……」
「塔太郎まで、何を言うとんねん。彼やったら、ここにおるやないか」
辰巳大明神が、高龗神の腹を指差した。顔を近づけてよく見ると、そこに五センチくらいの小さな細い魚がおり、元気そうに泳いでいる。
その背びれには、棘が数本生えていた。
「輝孝さん、ですか?」
塔太郎の呼びかけに、小魚が際まで近づいて、
「はい。ミナミトミヨの、富女川輝孝です。これが、僕の本当の姿です」
と、明らかに以前とは違う、しっかりした声で応えてくれた。辰巳大明神が、高龗神を称賛する。
「高龗神さま、ありがとうございます! いやはや、さすがは貴船明神。唯一無二のお力ですわ!」
「いえいえ。お役に立てて、良かったわ。彼はもう安心やしな。輝孝さん、そやろ?」
「はい。お陰様で、記憶も全部戻りました」
小魚となっている輝孝の表情は分からないが、綺麗な水の中ですいすい泳ぎ、ゆったりと尾びれを動かしている。その姿に、大と塔太郎は心から安堵した。
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