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ミナミトミヨというのは、菅原先生の教えの通り、かつて京都や兵庫などで生息している小魚だった。 綺麗な水で温度も一定、さらに繁殖に使う水草も必要という繊細な魚である。そのため生息範囲が限られており、日本の近代化や諸々の事情に耐えられず、そのまま絶滅にまで至ったという。  ところがその少し前、町で商売や巫女まがいの事をしていたタキという女が霊力を持っていて、一部のミナミトミヨと会話する事が出来たという。 彼女は、その頃には数が減っていたミナミトミヨを哀れに想い、彼らに生き残ってもらいたいと、ある術を教え込んだ。  その術というのが、何を隠そう人間に化ける術である。これを習得した一部のミナミトミヨは陸に上がり、人間として生活する事に成功した。  その人達、いや、その魚達こそが、輝孝の先祖であるという。  魚を一旦やめる事で絶滅から逃れたミナミトミヨ達は、十数家に分かれて京都市内で暮らし始めた。 綺麗な水が必要な彼らにとって、京都の地下水は水質的にも温度的にも理想であり、家に掘った井戸水や周辺の名水を汲み置きして飲み、水の霊力も吸収しながら、人間の生活を維持してきた。 そうして細々と同族間で結婚し、子を産み、さらに子を産みと生き延びていた。
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