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ところが、輝孝が小学校に上がる直前、矢野家の当主とその妻が、流行り病で亡くなってしまった。 四歳の沙美だけが残されたので悲観に暮れる暇はなく、二家が早急に協議した結果、富女川家が養女として引き取る事となった。 「――ははぁ。向こうがお兄ちゃんって呼んどったんは、そういう事やな。沙美ちゃんは、戸籍上の妹な訳や」 「はい」  辰巳大明神が顎を撫でる。出町柳駅に着いて電車から降り、辰巳大明神を祇園まで送るために、大達はタクシーで移動していた。 貴船からここまで戻るのにはやはり時間がかかり、もうすっかり日は暮れている。 「沙美を引き取ったのは僕の物心つく前ですし、それ以前から、沙美とは家族同然でした。ですから、たとえ両親は違っていても、本物の兄妹そのものでした」 川端通りを南行し、対岸に見える建物の灯りと暗くなりつつある鴨川を見つめながら、輝孝は自分と沙美、そして伊知郎との親密さを語った。
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