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事務所、スタジオの一番奥、大きな暖簾が掛かっている。ロッカーと事務用戸棚で区切った入口、ドアはない。休憩所も兼ねているのか冷蔵庫やキッチンもある。事務用品、いろんなものが無造作に置かれその中央に事務机が四つ並び、白いテーブルが端に置かれている、周りには丸いスチールの椅子が置いてあった。どうぞと言われ丸椅子に座る。
コーヒーが出てきた。向かい側と横に座られた。
「君、中学は何処?」
「二中でした」
「そっか、じゃあ知らないのか・・・俺はここのオーナーの秋山こいつは従業員の高原、知佳は俺の姪っ子なんだ、君の名前聞いてもいいかな」
「原 健一です」
「原君、知佳のこと内緒にしてもらえないかな?」
「どうしてっすか?」
「知佳はギターをやってることで中学校の頃いじめをうけてたんだ」
いじめ?
「俺はな、あいつを守るために俺の女だって言ってる、オーナーには悪いけどな」
「まあ、俺も承認してるし、キヨはそんなことしないのわかってるから」
ハア?なんなんだ、いじめって
「でも、あいつ、クラスじゃ、影が薄いっていうか、静かで、さっきみたいに笑ってるところなんか見たことないし」
それにギターって、昨日忘れ物だって。
「だから波風を立てないでほしいんだ、君、イケメンだね、クラスじゃ人気者だろ?」
「・・・まあ・・・」
今あいつは大事な時を迎えている、これから先、一生を左右されるくらいの大事な一年なんだ、だから、ここでの事を秘密にしておいちゃくれないだろうか。真剣な顔つきで俺に言う。
一生?
「でも、俺、先輩たちとここへ来た時、クラスメイトって言っちゃいました」
「でも、これ以上君が何も言わなければ何も起きない」
「頼む、知佳のこと秘密にしてくれ」
「へー、ナイトが二人ですか、どんな秘密なのかな、俺も混ぜてくれたら秘密にしてもいいですよ」
高原はガタンとイスを倒し首元に手をかけた。
「てめー」
「待て、わかった、明日の夜九時にここに来れるかい?」
「九時って閉店ですよね」
「入り口のシャッターの横に扉があるからそこから入ってくればいい」
高原は手を離し椅子を直し座った。
オーナー、こんなガキにそこまで。ガキだと、俺は高原を睨んだ。だが彼も鋭い視線を送っている。
「いや、そこまでしなきゃいけない、あいつの将来がかかってるから、明日は学校で、ここの事は話さないでほしんだ、できるかい?」
「わかりました、夜九時ですね、伺います」
「ありがとう、ゆっくりしていって、キヨ、休憩入っていいから」
オーナーが出ていった、二人が残る、高原はやかんに水を入れガスに火をつけた。
「飲んだら帰れ」
「いじめってさ、あいつも何かしたんじゃねえの?」
俺は胸ぐらをつかまれた、高原の顔が近づく。
「何にも知らねえくせに、大きな口叩くんじゃねえぞガキが!」
「キヨ君、ごはん、あれ、お客さん?」
女性が入ってきた、きれいな人、女優みたい、胸ぐらをつかんだキヨが離す、椅子の上にちょこんと座った、女性から目が離せない。舌打ちが聞こえ、知佳の同級生と言う、女性はおばさんと言ってきた。高原と何か話をしている。
「俺帰ります」
「あら、もう帰っちゃうの?」
―さよ子さん
高原は首を振った。
「あ、あの、山田は帰り何時ですか?」
「今日は日曜だから、十一時かな」
「そんなに遅くなるんですか?」
「うん、いつもよね、キヨ君」
あっちゃー、さよ子さん、口チャックです、オーナーに怒られても知りませんよ、こそこそいうが聞こえてるよ!
「あ、またいらないこと言っちゃった、今のこと内緒ね、お願い」
手を合わせる綺麗な女性から優しい香りがした...
「ワ、わかりました、それじゃあ、明日、さようなら」
「バイバイー・・・キヨ君、明日って何?」
高原の声が後ろから聞こえてくる。俺は事務所を後にした。
階段を降りるとレジにいる彼女の周りには男性客が話をしている、笑顔、なんて顔で笑ってるんだろう。
それを横目に俺は店を後にした。
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