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―ねえ、山田ってどの子?
同姓、あゆみは私と間違えられた被害者。左手はガラスの花瓶でボロボロにされた。
彼女の左手は私の代わり、何も関係ない人を巻き込んだ罪、それは私の心の奥深くに今でもドロドロとした塊で渦をなしている。陰湿ないじめは警察沙汰となり、幕を閉じた。
最初はちょっとしたことからだった。
スタジオに来ている、バンドの追っかけをしていた子が見た光景、私がみんなにかわいがられていたのがあの子の心に棘をさした。
靴が無くなったり、体操着が無くなったり、嫌がらせが始まった。
私は父が小学一年の時に事故で死んだ、母が必死で頑張っている姿に、何も言えずそれを隠した。そしてそれはクラスを巻き込んでエスカレートしていった。私は不登校となった、それでも、おじの所でギターを弾けるだけの逃げ道があった。学校へ行ってきますと母に内緒で叔父の所へ向かう、それも隠し通すことが出来なかった。
あの時の母の顔は忘れられない、怒鳴り散らされた、初めて叩かれた頬、何を考えているんだと。
私は涙を流しながら黙って唇をかんだ、言いたかった。“私は何も関係ない、無実なのに”叔父が面倒を見ることで、何とか母を説得してくれた、学校へ無理して行かせなくていいと。
そんな時に起きた事件、そして、それにかかわってしまったのが川上君、彼も被害者。あゆみは、そんな私に、あんな事を受けたのに、優しく接してくれた、手は使えないわけではない、でも動かない指がある。それよりも心の傷を負ったことへの不安を二人で乗り越えようと言ってくれて仲良くなっていった、川上君は授業のノートを取ってくれたりといろんなことをしてくれた、そしてよく、叔父の所へも来てくれていた。
「俺達は同志なんだ、誰も悪い事をしていないじゃないか、何で後ろめたい事をしなくちゃいけないんだ」
川上君の言葉で、そしてあゆみのやさしさに私は救われた。そして私は高校を受けることにした。
この二人にだけは何でも話が出来た。
大切な人、失いたくない。
「よう、ジャリ、元気ねえな」
掃除をして、掃除道具をレジの後ろに置こうとして声を掛けられた。
「ねえ、キヨ君、私ってみんなのお荷物になってない、迷惑ばっかりかけて」
「何しおらしいこと言ってんだよ、明日雪でも降るか?何かあったのか?」
ん、何にもない。きよ君は黙って頭をポンポンと叩く。
優し人達、泣きそうになる。
―すみません
「はい、いらっしゃいませ」
―ギターを見せてください
「どうぞこちらへ、レジ頼む」
お客さんを案内、キヨ君はギターを弾けるわけではないが、売ることに関しては天才的な人だなと感心する、まあ楽器はいろいろあるがどれも彼はできない。ただ歌はまあまあうまいと思う、カラオケで何度か聞いたから。
―すみません、スタジオの予約したいんですが
「はい、承ります」
パソコンに入力、空いている日を探す、覗き込む客。
―いっぱいですね。ここは?空いてないんですか?
録音ブース、ちょっと割高、説明をした。相手は驚いていたこんな田舎でちゃんとした録音ブースがあるのかと?そして、見学ができないかと言ってきた。レジを離れ二階へ案内、周りを見て歩く客、階段を上りきると下を見たり、ぐるっとまわりを見たり、変な人、スーツ姿の眼鏡をかけたサラリーマン、珍しくないけど、と思いながら、スタジオ前の受付レジに案内する。
「オーナー、お客様です、ブースの見学をしたいそうです」
「わかりました、いらっしゃいませ、ご案内します」
胸から何やら取り出し、叔父に渡す、あー名刺か変わった人?
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