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lesson.1
クラスが変わり高2になって二週間が過ぎようとしていた。教室の後ろにたむろする連中がゲラゲラと大声で笑っている、あんな奴らに知れたらそれこそ何を言われるか。ハア、何でよりによってこのクラスなんだろう。いやいや、私にはそんなこと関係ない、何事もなく、後の二年間を無事、平穏に終えたい、当たり障りなく、我慢すれば何とかなる、目立たないように、周りに合わせて、このまま・・・黙って、知らぬ存ぜぬ、見て見ぬふりをしていれば・・・
今日は学校は休み、昨日までの事はもう頭にはなかった、切り替えは早い方だ。
♪ポーン
「お父さん行ってきます」
写真の中で微笑む父に手を合わせた。
「お母さん、また姉ちゃん、変なので叩いたー」
弟が母の部屋をのぞきながら言う、口には歯ブラシをくわえ、だらだらと歯磨き粉を口から流しながら。
「お父さんの好きな音だからいいの」
うるさいなと思いながらも手を合わせ集中、大きく息を吸い込み「いってきます!」私は立ち上がり、トートバッグと大きな黒いケースを持った。
「こら!仏壇で遊ぶなって言ってるでしょ!棒があるでしょ金を叩きなさい!」
洗濯物を干す母のベランダから聞こえる声、それはもう遅い、父には出かける挨拶をし終えたから。
「行ってきまーす」
「知佳、こら待ちなさい!」
土曜日、一本おくれた、混雑するバスの中
じゃまだな。
「すみません、ごめんなさい」
黒い大きなケースの中にはギターが入っている。
これをこうして持ち歩けるようになったのは高校に入ってからだ、それまでは今から行く叔父の家に預けていた。大きいのと邪魔なのを理由に、それと弾けるところもなかったというのが大きいかな。ギターを抱(かか)え休日は小学校からずっと、高校になってからはほとんど毎日通っている。
学校の誰にも会いませんように、祈りながらたった十五分揺られていく。たまに知っている人に会う、その人たちの目的を私は知っている、同じところ、叔父の所へ行く人たちとは顔見知りが多いから頭を下げる。
「へーギターやってんだ」
えっ、振り向いた。ドキンと心臓が鳴った。
クラスの男子、後ろの席に座っていた、あのひときわ通る声で笑っていたあいつに声をかけられた。
ドキドキと心臓がうるさいくらいになり始めた。
一番見られたくないやつらの一人に見られた、どうしよう、しかとしようかと無視しようとしたらもう一度言われた。
「ナニコレ、ギター?」
体を乗り出して指さした。
うんとうなずいてしまった。
「弾けるの?」
「忘れ物を届けに行くんです」
とっさに出た言葉、吊皮から手を離した。
指先、手を見られたらすぐにわかってしまう、ネイルをしている訳ではないけど手入れはしてる。左は見せられない、爪が短く、タコを繰り返し作って固くなった指先、すっと左手を隠して横をむいた。
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