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「知佳ちゃん、掃除終ったらスタジオ入っていいってオーナーが」
客のいない廊下で煙草を吹かす清隆、ぎゃーぎゃーと二人で注意しても聞かない、事務所で吸えと言っても、何故かここでばかり吸う、まあ、みんなに気を使ってるのはわかるんだけど、真上には、大型の換気扇があり煙草の煙をまっすぐにあげているから。
「なんだかんだ言って、かわいくて仕方ないんでしょ」
「ケッ、あんなガキ」
「照れてる」
この場所は私にとって居心地のいい所、中二の秋、いじめにあいそれから三年生の一年間、不登校、些細なこと、何でもないことがきっかけだった。その時、叔父夫婦、キヨ君、美香ちゃん達は暖かく見守ってくれた。そして高校へ行けるように仕向けてくれた。感謝している・・・大切な人達。
―いってきます
「おう、ジャリおつかれ」
「べーだ、バイバイ」
閉店間際、一時間スタジオで練習した後、私はここからまたバスに乗り四つ目の停留所で降り、すぐそばの英会話教室へと行く。これも今年で終わり。
「ハーイ、チカ」「ハーイ、エディ」
「ハーイ」「グットイブニング」
小さな異国、日本語は必要最低限、学校で教わる英語はここでは少ししか通用しない、私は一番年下、みんなからかわいがってもらった。先生からは、海外での生活は一人でも大丈夫とお墨付きをもらった。今年一年でしっかりと会話を楽しめるようにしましょうと、ちょっと上のクラスに入ることになった。
ビジネスマン、教師、飲食店の人、大学生、少人数クラス、週二回、一時間半の授業、いつも楽しく笑ってさよなら。
でも、これすら勝利しなければ、何の意味も持たない。わかっている、楽しいだけじゃ・・・・
帰りのギターケースは軽い、心地よい振動二十分のバス旅行、最終便この時間、数人の乗客、うとうととしてきた。
―知佳、綺麗な音だろ
・・・お父さん・・・
「おい、起きろ」
「ん?」
「お前ここだろ?」
はっとしてあわててボタンを押した。
「あ、ありがとうございます」
また、アイツ、何で今日に限って二回も、ブレーキがかかり前のめりになった、ギターケースをぎゅっと握りしめた時、トートバックが手から滑り落ちた、スローモーションのように楽譜や、教材が散らばる、それを乗客が拾ってくれた。
すみません、ありがとうございます。恥ずかしいのと早く下りなきゃと言うのでテンパっちゃって
「おい、これ」
「あ、ありがと」
無理やりバッグに詰め込む。
―大丈夫ですか?降りられますか?
「はい、すみません」
やっと降りてため息をついた。ハー、居眠りなんて初めて、でもあいつ何で起こしてくれたんだろ。あ、ギター、明後日、何か言われるかな。
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