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古い県営住宅は大きな音が出せない、楽器は無理、学校で習う縦笛を吹いただけで苦情が来る、ハ―、何でみんな神経質なんだろう、シーンと静まり帰った建物、コンクリートの廊下が靴の音を反響させている。
「ただいまー」
声もワントーン落ちる、この声でさえ響くのだ。
重い金属でできたドアが、人の出入りを知らせる、まあこれも迷惑ッチャ迷惑な音だけど、バンと大きな音ともに自然にドアが閉まって、首をすくめた。
「おかえり、ごはんは?」
コンビニの制服のままこっちを向いた母に食べるといって、部屋に入り着替えをした。
お風呂といって母が入っていった。
「飲む?」
「ありがと」
なんかオヤジみたいな会話、深夜の夕食、食卓には遅くに帰ってきた母がはもう食べ終わった空の食器が並び、残り物のおかずとお茶漬け、それをかきこんだ。
明日の予定を母親に聞かれる、電話の上にあるカレンダーにはいろんなことが書かれている(スケジュールいっぱいじゃん)弟の学校の予定、母のパートの予定、そして私の予定、カレンダーは父が勤めていた銀行の物、大きな書き込みの出来るものは重宝していた。「朝六時のバスで行く」さよ子さんに迷惑をかけないように言われた。
片付けをして自分の部屋に入る、隣からは大きな寝息をかいて寝る弟、カバンの中身を机の上に出した、折り曲がった楽譜を直し、英語の教材を整える。(あ、あれ?無い、無い音叉、あっ、さっき落としたのか、もう、ドジ仕方ないマシンの方もっていくか、後でバス会社に聞こ。)お風呂に入り、掃除をしながら昔を思い出した。前に住んでいたアパートはここよりもいいところだった、父は、転勤が多かったから、雅之が小学校へあがったら、叔父の家の近くに家を建てるつもりでいた。だけどいなくなってしまった。母は、安い県営住宅へ引っ越すことを決めた、叔父はあのアパートにいるのは辛いからとだけしか言わなかったがこの頃それがどういう事なのか、だいぶわかって来ていた。
キッチン、テーブルにうつぶせになる母
「お母さん、布団に寝て」
―ギター、コンクールダメだったらやめて、手伝うからね。だから、最後までさせてください小さな声で言う。
「寝るわ」と言いながら立ち上がった母の背中を追う。
「あんたぐらい何とかなる、安心しなさい」。
母の背中、小さくなったな。
母の布団の横にある仏壇、父の笑顔、布団に入った母を見て、電気を消した。
もう少し、お願いします。おやすみなさい。
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