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階段を降りる。
「あの、中の音ってどこかで聞けるんですか?」
レジの横に立つ店員に聞く、黒いシャツの胸元を開け、中からペンダントが見える、ウエーブのかかったセミロングの髪形、ロック歌手のような格好、男前の大人、煙草の匂いがする。(本当にあいつの彼氏か?)
「聞きたい?」
「はい!」
階段下には待つ人たちが壁に寄りかかったり、階段に座ったりして話をしている。
「じゃあ、中、入って」
店員はレジのカウンターの中に入れてくれ、後ろのつまみをひねった。
ぞっくっとした。スピーカーの音が背中を刺す、さっきとは比べ物にならない音が体を突き抜ける。そして、歌、えっ、女の声?なんてきれいにハモっているんだろう。
―いいだろう?俺のこれの声。
小指を立てた。
あの、大人しそうで、クラスでも影が薄いあの女の声が胸を突き刺す。そして、エレキのソロ、すごいテクニックに圧倒される。あいつが弾いてるのか?曲が終わった。次の曲が流れる、バラード
「えっ?」
「すごいだろ、プロ級の腕前だからな」
腰が抜けそうになる体を支えるのが精いっぱい、足に力をこめないと、転んでしまいそうになる。アコースティックギターのきれいな旋律が流れる。ボーカルと不釣り合いなくらい、ギターが前に出る、ふとそれが消える、ボーカルが前に出る、音が、なんとも言えない見事な不調和音を出す。
「これはオーナーのテクニック、ありがとうございました」
出てくる客も足を止め聞き入る。
「すごいっすね!」
「すごいだろー」
俺はポケットの上から中に入ってるものを握った。返したくない、これを持っていれば、あいつの音楽に近づける。
「あのー、さっきの話、本当ですか?」
「何?」
小指を立てた。
「俺、彼女の同級生なんです」
「えっ!ほんと?マジかよ、ちょ、ちょっと時間ある?」
「は?はあ」
キヨさんという人は、階段下で待つ人たちに声をかけると、上に駆け上がっていった。
すぐに上から来てと声がして、階段を上っていった。
何を慌てているのだろう。ブースから録音を終えた人たちが出てきた。顔を紅潮させ汗を拭いている。女はドアが閉まらないようにおもりを挟んだ。キヨさんは顔を突っ込み何かを言っているけど出てくる人との声にかき消される。振り返る彼女。レジのそばに立つ俺と目があった。すぐに目をそらし、床にあるおもりを探してはドアが閉まらないようにおいていく。
「知佳、知り合いか?」
「う、うん」
「同級生ってホントか?」
その声を聴くとオーナーがスタジオから出てきた。
「うん、クラスメイト」
「あっちゃー、オーナー、やってもうた」
「知佳、レジ頼む、君、時間あるかい?」
「はい?まあ」
「ちょっと、事務所で話できるかな」
二人の後をついていく、なぜ事務所?マッいいか。
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