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「富士田さん、遅いっす」 「待ち合わせの時間には間に合ってるだろ。午後はどこを回る予定だ?」 「嶺岸デンタルクリニックと山崎整形外科。少し時間をおいて次に……」  富士田と春野は製薬会社の営業をしている。早めの方がいいと午前中に総合病院にフネンの仲間を半分置いてきた。残ったやつは単純系がほとんどだが彼らの行き先もだいたい決めていた。 「富士田さん、それが、っす」  何についてそれがなんだ? と思いながら春野を見る。 「車持ってこれなかったんす」 「ああ、見ればわかる。今日は予定通りには回れないかもしれないな。電車も動いてないみたいだからな」  交通が麻痺しているのだ。急に眠気に襲われた運転手が追突を起こしたり、スクランブルの中で倒れ込む人がいたり、交通だけでなく人ごみにも異変が起きていたからだった。 「なんかヤバイ。明らかにおかしいんじゃないっすか? 催眠ガスみたいなものが撒かれたんですかね?」 「そんなもの撒かれてたら全員眠ってるだろ。オレたちもな」 「そうっすね~」
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