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そんな、世間のさわぎをよそに、わが家では、大きな出来事が起ころうとしていました。少なくともぼくにとっては事件でした。
「明日から、あなたに妹ができますから」
お母さんに告げられた時も、意味がよくのみ込めず、ただ、何か今までと違ったことが起こるのだろうくらいにしか思いませんでした。
「リカと呼びなさい」
お母さんはそういって、薄汚い着物を羽織った四歳くらいの女の子を連れてきて、ぼくに引き合わせました。
黒髪のおかっぱ頭。黒いくるりとした大きな目。お母さんはリカをお風呂屋に連れて行き、帰って来た時にはきれいな赤い着物に着替えて、可愛い女の子に生まれ変わっていました。
リカは青い目をした人形をひとつ大事そうに抱えていました。
セルロイドでできた六十センチくらいの、茶色がかった金髪を眉毛の上で切りそろえ、小さなひさし付きの水色の帽子をかぶり、お揃いの色の洋服を着た人形。
赤い着物を着た持ち主と大きな瞳がよく似た人形でした。
人形の裏側には、『作った国』と製造番号とでもいうのでしょうか、『記号と番号』書いてある札がしっかりと貼ってありました。
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