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5. 亮太
あれから1週間が過ぎた。
突然大きな仕事が舞い込んできたせいで終電で帰る日々を送っている。
華々しい金曜の夜とは思えないほどボサボサの髪に薄化粧でひたすらパソコンに向かう。
フロアには私ともう一人。時計に目をやると23時をとっくに回っていた。
「夏ちゃん休憩とってる?お昼もろくに食べてなかったでしょ。」
「あ…大丈夫です。すいません。どうしても今日中に終わらせたくて。」
声をかけてくれたのは2年先輩の亮太さん。ちなみにこの部署で抱かれてもいいランキング堂々の第一位を獲った長身キラキラ系イケメンだ。
…悔しくも涼太と同じ名前なのである。
「だめー。はい、立つ。こっちに来る。」
「えっ、えっ、」
くるりと椅子ごと回転させられたかと思ったら両手首を引かれて立ち上がる。
自然に握られた手は涼太と違って大きくてゴツゴツしてて…ああもう、どうして思い出してしまうの。
「どれがいい?」
「ありがとうございます…じゃあ、」
リフレッシュルームの自販機から選んだエナジードリンクを開けて、同じものを選んだ亮太さんと缶をぶつけて乾杯する。パチパチと弾ける炭酸が喉を通ってゆき、少し私にはキツくて涙目になりながら飲み込む。
「がむしゃらに頑張るのもいいけどさ、ちゃんと休まないとだめだよ。心が疲れちゃう。」
「そうですね。気をつけます。」
遥か昔に心なんてものは疲弊して死んでいますとは言えずに苦笑いをこぼす。
「あ、そうだ。夏ちゃん来週の日曜ヒマ?」
「あー、えと、そうですね。今のところは。」
「じゃあさ、映画見に行かない?試写会のチケット貰ったんだ。」
「そんな、私なんかが行っていいんですか?ほら、お友達とか、彼女さんとか…」
「彼女いないよ?」
「そうなんですかっ!?」
「そんなに驚く?」
ケラケラ笑う亮太さんにすみません、と返す。彼がフリーであることを同じ部署の女性陣が知ったら黒い小競り合いが始まるのは目に見えている。内緒にしておこう。
「日曜空けといてね。」
「はい。」
ぽんぽんと私の頭を撫でる彼の目は優しい。なんだか真っ直ぐ目を見れなくて手元の缶を見つめながらきゅっと握りしめた。
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