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3. ミヤビ
うっすらと目を開けると知らない天井。
何度かゆっくり瞬きをして、すぐにさっきまでのことを思い出して勢いよく体を起こす。
「あ、起きた?」
声がする方を見ると上裸の黒髪パーマさんが水を飲んでいた。
ハッとして自分の服を見てみるけど特に変わったところはない。
「はは、安心して。気絶した子を襲うほど飢えてないから。」
ケラケラ笑った彼ははい、と水が入ったグラスを渡してくれた。
「ありがとうございます…」
冷たいそれは全身に染み渡る。喉が乾いていたみたいで一気に飲み干した。
「あの…私、」
「なんか分かんないけどぶっ倒れちゃったからここに寝かせただけ。本当に何もしてないよ。」
「涼太、さんは…」
「あー、あいつは拗ねて部屋にこもってる。俺が君にキスしたのが気にくわないんじゃない?」
鮮明に彼の唇の感触を思い出して、ぼふんと赤くなる。そんな私を見て可愛い、と楽しそうに笑った彼は頭を撫でてくれた。
「夏ちゃん、だっけ?俺はミヤビ。」
「ミヤビさん…」
「涼太のお世話係みたいなもんかな。あいつと同い年なんだよね?俺は夏ちゃんより2つ年上だけどタメ口で構わないから。」
「あ、いや…」
「まあ、好きに呼んでくれたらいいよ。ミヤビでもミヤちゃんでも。」
「はあ。」
「もう一人同居人がいるんだけど、あいつたぶん今日は帰ってこないからまた紹介するね。」
「はい…」
さて、と立ち上がったミヤビさんはハンガーにかけてあったタンクトップを着る。腹筋すごかったな…
「夏ちゃん明日は仕事?」
「いや、休みです。」
「よかった。うち泊まっていったら?もう終電無いし。」
「嘘!」
壁にかかる時計を見てみたら夜中の1時半だった。私の馬鹿…流石にここに泊まるわけにはいかない。タクシーで帰ろう。はあ、痛い出費だ。
「シャワーとか自由に使っていいからね。あ、メイク落としどこやったかな。」
「いえ、帰ります。ご迷惑おかけしました。」
「帰るの?」
「泊まるのはちょっと…」
「まだ警戒してる?」
首を傾けて聞いてくるあなたが一番危ない気がするのは私だけでしょうか。さっきだっていきなりキ、キスされたし…
それに、ここに来た時ミヤビさんは「また女の子連れてきたの?」と涼太さんに言った。つまり、そういうことだろう。
「今日はもう遅いから泊まって。本当に何もしない。約束する。」
「うう…どうしよう…」
ここから自宅までのタクシー代を考えたら…それにこんな高級マンションもう二度と来れないだろう。
始発まで、と思ってお言葉に甘えることにした。
「すみません。明日の朝イチで出て行きます。」
「ゆっくりしていきなよ。そういや明日は涼太も仕事ないんだよね。」
「そうなんですね。」
「よし、じゃあベッドはそーちゃんとこ使ってもらおう。あいつの部屋が一番綺麗だし。」
「ありがとうございます。」
そーちゃんという人がもう一人の同居人なのだろう。ごめんなさい、と心の中で謝ってベッドを貸してもらうことにした。
「お風呂はここね、入ってる間に服洗濯するからゆっくりしておいで。」
「ほんとにごめんなさい。ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
にこっと笑ったミヤビさんは涼太さんのお世話係だというだけあって面倒見がとても良い。ありがたく洗濯機とお風呂とバスローブをお借りした。
「失礼しまーす。」
そーちゃんさんのお部屋はシンプルで物が少ない。ベッドに寝転がって時計を見ると既に3時前だった。
疲れた…そういえばあれから涼太さんの姿を見ていない。何してるんだろう。
まあいいか、朝が来れば二度と会うことは無い。
…自分で言っておいて少し寂しかったりするのは気のせいだ。
この二日間は夢だったのだ。間違いない。そう言い聞かせてすぐにまた意識を手放した。
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