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リグレット・レインボー
雷に打たれたみたいな衝撃だった。
大勢の人が行き交う大きな交差点。音響式信号機が奏でる軽やかな音。夕暮れ時の午後五時三十分。帰宅ラッシュで一番人が集まるこの時間帯。
オレは、一目惚れをした。
人なんて鬱陶しいほど居るのに、その人だけははっきりこの目で捉えることが出来た。一瞬だけ見えた、艶のある赤色の唇と、大きな瞳。ふわりと長い黒髪を靡かせて遠くへと歩いていく彼女に、無性に惹かれた。
快晴なのに藍色の雨傘をさした彼女を、オレは帰宅することも忘れて必死に追いかけた。
「あの……!」
あぁ、何をやっているんだろう。
その人に声をかけた途端に後悔した。初対面の人を理由なく追いかけて声をかけるなんて、向こうからしたらただの変人じゃないか。当の本人がそう思っているのだから間違いない。
彼女が傘をさしたまま、ゆっくりと振り返る。ナチュラルメイクが施された、オレと同い年くらいの少女の顔だった。驚いたように丸くなった目に吸い込まれそうだ。誰もが素晴らしく美しいと豪語しそうなほどの端正な顔立ちに、オレの鼓動は加速し、体がじわじわと熱くなっていった。
だが、その熱は彼女の一言で急激に冷えることになる。
「……あなた、私が見えるの?」
そう言った彼女の足は、夕方の人混みを透かしていた。
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