3人が本棚に入れています
本棚に追加
第二話 新しい出会いと上級生
一つの出会いが、人を引き付けるようにまた人を結び付けていく、これも奇跡、これが続くとどうなるんだろう、いつか、それも奇跡とは呼ばなくなるのかもしれない。
ただ、時の波に揺られて流れ着いていくようで、その先にある未来なんてわかるはずもなくて。このまま流されていいのだろうかと、今は考える余裕すらなかった。
「おはよう」「おす」「おは」
一年の音楽科全員が入ってきた。ここは講堂、コンサートや、演劇なんかが出来る本格的なホールだ。初めての実技、みんながどういう事をするのか興味津々だ。
「山田、ギターは?」
クラスとも打ち解けてきたというか、私達の周りにも気のいい仲間は寄ってきて、数人のグループが出来上がりつつある。研究室で預かってもらってるから取りに行って来るね。「誰の研究室?」「もうお前らそんな人と付き合ってるのか?」「誰だよ?」
「伊勢教授」「ウソだろ!なんでお前らがあの教授の所にいけんだよ」
「イヤー、ちょっとした知り合い、ってーとこか」
「ちょっとって、この大学のトップだよ、おたくらどんな関係なの?」
「んーいろいろ世話になったとだけ言っとく」「へー、なんかすげーな」
ーじゃあ始めるぞ、楽器の者はそのまま、声楽は向こうへ移動してくれ
「行こう蒼井君」「じゃあな」
「おう」
蒼井君たちは立ち上がると手を振って行ってしまった。
「がんばってね、おまたせ、ねえ、蒼井君てパート何かな、あの声じゃあ低い方だよね」
「案外、バスだったりして」
―ピアノ手を上げろ
「はい」「へーい」
―七人か少ないな、お前ら二回弾いてくれ、原トップバッター、悪いが三回頼む
「はーい」
やっぱり、さすがだな、こそこそいう声が聞こえる
なあ、あいつ何がすごいんだ?
お前知らないのか、あいつ、ピースやフェイク、テスターなんかのバックやってんだぜ、楽譜は読めるし、何でも、一回聞いただけで弾けるって聞いたな。
すごいでしょと言いたくてうずうずする。
―寝るなよ、ちゃんと聞いてレポート提出だ、○○上がれ
クラシックはいいな、優しくなれる。
同じ曲を弾く、それに合わせる声楽部門の子たち。歌う人の声、感情の入れ方で聞こえ方は千差万別だ。
―次、交代
「お疲れ」「どうだった」
「うん、眠れそう」「お、いいね」
「私、健ちゃんのクラシック好きだな、またリスト聞かせてね」
「おう」
―蒼井、上がれ
「はい」
演奏が始まった、みんなが息をのむ、一人だけ、体育会系で短い髪に日に焼けた黒い肌は、どう見ても野球部のキャプテンぽい、でも、今高校を卒業したばかり、彼も何年後かには東京の水にどっぷりつかるんだろうな。
?
「何、ソプラノ!」
いつもの話し声からは想像のつかないすんだ高い声、まるで声変りをしていないような声がホール内に響いた。
思わず拍手をした。
「すごいね」「アー初めて聞いたあんな声」
「ハア、緊張したー」「お疲れ」「すごいね、裏声みたいに高いのね」
「拍手ありがとな、俺ののど変わってるんだ、低いのも出せるけど疲れる」
「普段の声、低いのにな」
「自(じ)はな、力入れないと、こんなんだ」
―次、すぐ楽器はじめる準備しろ
最初のコメントを投稿しよう!