第三話 ファーストアルバム

9/9
前へ
/110ページ
次へ
ここ?   うん、ここ 「いらっしゃい・・・キャー芸能人よ―ママ―来てー」 「何騒いでんのよ、え、健ちゃん、店長さん、いやーん、どうしたのー」 マリリンさんのお店。優は、ピアノの配達の時店に来ていて、会長ならこの人しかいないと決めていたようだ。 「うれしいわ、私でいいのならお力になります」 「お願いします」「すみませんこんなお願い」 「いいのいいの、うれしいわ」 これ、つまらないものですが。 「ワー、かっこいい、アルバムありがとう、又宝物が出来たわ」 「それと、これ、張っていただけますか?」 「なに、ポスター、いやだー、みんなのサイン入り―凄い、張らせていただきます」 「よかった、今度はメンバーもつれてきます」 「知佳ちゃんもつれてきなさいよ」 「いいんですか?」 「いいわよ、別に男だけのお店じゃないんですもの」 「そうなんだ、てっきり男しか入れないのかと思ってた」 「そんなことないー、誰が来てもいいの、ただ男の方がうれしいだけねーママ」 「センセ、一曲お願いしてもいいかしら」 「え、御客さんいるよ」 「いいの、そうね、リスト聞きたいわ」 「それじゃあ、会長さんに一曲プレゼントしましょうかね」 「すごいー、プロよ、プロ」 店に流れる音楽が消された。客が何が始まるのだろうと体を乗り出す。 ピアノのふたを開けた、手入れをしっかりしている、ピカピカに磨かれた鍵盤に手を置いた。 流れるように弾くピアノの音色が外にまで流れ出す。大きな窓から中をのぞく人たち。 男性が弾く力強い曲が流れる。誰もがピクリとも動けないで、原の弾く曲に魅了される。 (すごいな、お前も変わったな。いい男だよ、まったく) 曲が終わる。一瞬置いてわき起こる拍手 「すごい、すごすぎー」「せんせ、ありがと」 ドアが開き客が入ってくる。 「混んできたな、マリリンさん、また来ます」「うん、またね、待ってます♡」 それからみんなを連れていくのにそんなにかからなかった、それは、リーダーである本村が、会長をしてもらうのに挨拶に行かないとと言う一言、そこには社長とキヨ君、住ちゃん、小野さんもみんなが連れ添って出掛けた。 「知佳ちゃ~ん、お久―」「お久しぶりです」 「オーナー、お久しぶりです、キヨ君も、ありがとうございます」 「いえ、この度は無理なお願いを聞き入れて下さって感謝しています」 「うちはいいんです、こうしてお店に来てくださるなんて夢みたいですもの」 「すごい近くにあるんだな」 「先輩、はまっちゃいますー?」 「あら―うちはいいのよ、その方が」 「たまに来る方でお願いします」 「かわいいー」 一時間ほど飲んで騒いだ、入ってくるお客さんがポスターを見て私たちを見る、二度見、ガンミ、それにはおかしくて噴出していた。 「ありがとう、センセ」「また来ます」 「ごちそうさまでした」 お酒が入ってほろ酔い気分、今度は誰と来ようかな。叔父が立ち止り、私はそれに突っ込んだ。 「いよいよだな」「そうですね」 隣に並ぶ健ちゃんとキヨ君。いつの間にか叔父のあの大きな背中は二人に追い越されていた。高校生の詰襟を着ていたキヨ君、教室で寝ている健ちゃん、あの二人が壁を作っている。 「夢が現実になりましたね」 「ああ、お前らのおかげだよ」 私は、気分がいいのと、お酒の勢いで大声で叫んだ。 「みんな、来年は新築だぞー!」 「知佳・・・酔っ払い」 「うれしい」 「今度は個室だ」 「夢の一人暮らしだー」 「今年もお疲れ様でした。来年もよろしく―」住ちゃんの腕にまとわりついた。 「知佳ちゃん、飲みすぎ?」 「気持ちいいー、秋山楽器店サイコ―」 「ああーサイコ―だ、さて帰るぞ―、泣いても笑っても後二十日で今年も終わりだーみんなご苦労」 【お疲れ様でしたー】 みんなで腕を組んで帰った。新年は新しい家からの出発なのだから。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加