第二話 天狗様、渇望す

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 心底億劫な気持ちを堪えて、再び三郎が尋ねることにした。 「なんだ? ほれ、こんだけ面子が揃ってんだ。何かしらは解決するかもしれんだろ。一つ一つ話してみろや、な?」  幼子に言い含めるかのような声音に、太郎は唇を尖らせたまま、小さくうなずいた。 「まずなんだ? 何でも言ってみろ」 「………………追試、落ちた」 「……………ぶっ……」  案の定噴き出した清光坊の口を、咄嗟に両脇の二人が塞いだのを確認し、三郎は先を促した。 「名前も書いたし、回答も完璧だったのに……あのバカ娘のせいで……!」 「ば、バカ娘……ね」  太郎の口から特定の人物の名前が出てくることに三郎はわずかに驚くが、そんな様子に構うことなく太郎は語り続けた。 「あのバカ娘……天狗が神通力を使えるからって勝手にカンニング常習犯みたく言って、挙句の果てに自分にも教えろなんて言ってきて……!」 「あ~ははは……いっそユニークだな、その娘の発想」 「ユニークですめば神仏はいらないよ!!」 「お、おう、すまんすまん」  お前さんのその言葉の方がよっぽど不遜だぞ、という言葉を、三郎はひとまず呑み込んだ。太郎が、珍しくはらわたが煮えくり返って沸騰し尽くしててカラカラの空焚きになっているのがわかっているからだ。  ではなぜ沸騰し尽くしているのか?  さっきからこの話をすること、5度目だからだ。 「まあまあ……あれだろ? さっき聞いた、太郎にずっと憧れてたっていう天狐の娘だろ?なるほどな……で、どうなったんだ? 結局そこを聞けてない気がするんだが」  太郎が冷静には話せないことを察したのか、部屋の隅にいた僧正坊が言を継いだ。三郎は、今ばかりは助かったと言わんばかりに視線を向けた。 「まぁ色々あって、暴力娘のとりなしで太郎の”修行”を受けることになったわけなんだが……」 「へえ、お嬢がとりなして……そりゃまた面白いことに……」 「何が面白いって?」 「いや、なんでも」  睨みつけてくる太郎の視線を、三郎は笑いを堪えながらかわした。  三角関係のヨ・カ・ン☆ なんて冗談でも言おうものなら、下手をすれば消し炭にされるのが目に見えている。  空気を変えてくれたのは、法起坊だった。 「そういえば太郎、藍に術の手ほどきをしてやるんだったな。何から手を付けるんだ?」 「それなんだよ……親父さん……!」  太郎は、ふたたび 力なく肩を落とした。  再び太郎に代わって、僧正坊が言を継いだ。 「治朗が、あの暴力娘に小さな結界を張っていたのは、お気づきですよね?」 「お、おう。あの存在感が薄くなりそうな結界だろう?」 「まさしくそれです。暴力娘がそれに気付いたので、太郎は最初の課題として、あれを『自力で破る』ことを課したのですよ」 「え、あれを!?」  今度は太郎に視線が集中した。主に非難の目が。  その非難の声を、代表して相模坊が口にした。 「冗談でしょう。簡素なものでしたが、曲がりなりにも治朗が張ったものですよ。簡単な術の制御にすら難儀していた藍さんが破れるとはとても……」 「それが、破ってしまったんだ……」  僧正坊は、何故か沈痛な面持ちで、静かに首を横に振った。  その様子を目にして、どういうわけか話の信憑性が増した気にさせた。 「………………へ?」  その声は、誰が発したものかわからなかった。全員、かもしれない。  その場の全員が、ほぼ同じような表情を浮かべていた。
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