終章 天狗様、帰還す

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「合いの子って、ハーフのことですよね?」 「ええ、すみません古い言い方をしてしまい……」 「だから……子供云々の話はもう終り!!」  遅れて参加した瑠璃ちゃんが、そんな恥ずかしい話題を続けようとする……! 「あ、ごめんごめん。よく考えたら、私もハーフになるのかなって思っちゃって」 「ああ、そうか。お母さんは人間だもんね」 「そうですね。太郎坊様は体は人間ですし……人間同士と言えるかもしれません。その点、完全にハーフと呼べるのは瑠璃さんの方ですね」 「……つい最近までそんな自覚なかったけどね」  瑠璃ちゃんはそう言って、手首に巻かれた腕輪に視線を落とした。お父さん……(くがね)様から小さいときに貰っていたもので、金様の持つ腕輪と対になったもの。私もお世話になったものだ。  以前は大事にしまっていたらしいけれど、あの後はいつも身に着けているらしい。 「瑠璃ちゃん、良かったね。お父さんと仲良くできて」 「う~ん……そう一言で言える関係かどうかは……微妙だけどね」  まぁ確かにそうだ。  あの後、森を去ろうとする瑠璃ちゃんに金様は言った。 ***** 「瑠璃ちゃん……やっと来てくれたと思ったらもう行っちゃうのね。パパ寂しい」 「えっと……だってここに来ていいのは一生に一回って聞いてたから」 「何それ? 誰がそんなことを?」 「お母さんが……」 「なんてこと!? 彼女そんなこと言ったの!? どうして? ねぇどうして!?」 「え、違うんですか?」 「当り前じゃない! 人間は人間の郷で暮らすって言うから送り出しただけで、いつでも来てねってその腕輪を渡したのに……一回しか来ないつもりだったの!?」 「……え? 何回も来ていいんですか?」 「当然よ! じゃないと泣いちゃうから! パパ拗ねちゃうから!」 「あ……ははは」 ***** 「金様、授業参観に来るとまで言ってたね……」 「うん、高校にはないんだけどね……」  すっごくお世話になったし、妖狐を束ねる長なんだからすごい方なんだけど……お話しすると不思議な気持ちになる方だったなぁ。 「でもそれもこれも全部、藍ちゃんのおかげだよ。ありがとう」 「え、そんな……こちらこそだよ」  瑠璃ちゃんと二人、お辞儀し合った。変な感じだ。 「ううん。私はね、小さい頃からずっと隠れてきたんだ。コソコソして目立たないようにして、自分が傷つかないようにしてきた。でも勝手なことにね、どこかで認めてほしいとも思ってた」 「瑠璃ちゃん……」 「たぶんお母さんやお父さんから褒めてもらった記憶がなかったからだと思う。だから、初めて親切にしてくれた太郎さんに、そういうのを全部求めちゃってたんだと思う」 「そ、そう……なんだ」 「それで……太郎さんも、他の人も惹きつける藍ちゃんを羨んだこともあったけど……そんな可愛げないから、かわいがられないんだよね」 「瑠璃ちゃん、そんなことはないんじゃ……」 「おう、全然そんなことないぞ~」  私の言葉に乗っかる様に、後ろで飲んでいた三郎さんが割り込んできた。さっきよりも気分良さそうだ。 「そ、そんなことないんですか? どのあたりが?」 「あの金様って方はな、まぁ気の多い方で妻も子供もやたらたくさんいるんだわ」  それってどうなの……?  あ、いや神話の神様は意外とそうなんだっけ……? 「でな、癖があってな。息子には鋼とか鉄とかつけて、娘には宝石の名前をつけるんだ。生まれた子は元より強い(おのこ)、美しい(おなご)だっつってな」 「あ……『瑠璃』って名前……!」  三郎さんはニコニコして頷いた。 「うちの管狐たちもそうだ。”琥珀””珊瑚””翡翠”っつってな。み~んな、等しく可愛がってるぜ、あの方は」 「そっか。ちゃんと可愛いと思ってもらえてたんですね」 「おう」  瑠璃ちゃんは、ちょっと涙を浮かべていた。またもう一つ、彼女の心の重荷が降ろせたみたいだ。  と、そこへ…… 「まったく……この家の人間のくせに座って飲み食いだけとはいい御身分だな、暴力娘」    出た。もはや一日一回聞かないと物足りない気さえしてくるこの口調……僧正坊さんが現れた。
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