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「お? なにやら楽しそうだな、あっちは」
「……僕もあっちに加わっていいですか?」
「お前が儂をこっちに隔離したんだろうが……」
皆の輪から離れた縁側に、太郎と法起坊が二人。皆に祝ってもらいながら楽しそうに笑う藍の姿をしみじみ眺めながら、二人で盃を傾けていた。
「しかしまぁ……本当によく二人そろって戻ってきたな。普通なら無事ではすむまい」
「ええ、そう思います」
真夏の夜は、日が落ちてもまだどこか蒸していて、暑さが薄衣のようにふわりと覆いかぶさってくる。太郎は冷酒を用意して、その暑さを振り払っていた。
傾けた盃の中の水面が、2つ目の月の姿を作り出していた。
「お前さんもあの子も、本当に奇妙な運命を辿るなぁ。1000年の時を超えて救われ、1000年の時を超えて出会い、惹かれ合い、そして再び1000年の時を超えて救いに行く……まるであべこべだ」
「正直、最初の頃は1000年後っていうのは頭領にかつがれてるんだと思ってました。本当は彼女は人里にいて、会ってはいけないからそう言ってるんじゃないかって」
「まぁ儂もちらっとは思っておったよ。おそらく他の連中もな」
「大抵の人に言われましたよ。変わり者だとか、諦めろだとか、やめとけとか、気色悪いとかも言われたなぁ」
「まぁ天狗は嫁なんぞ持たんのが普通だからな。その上、その嫁は1000年後に出会えると言ってるときたら……そりゃ誰でも自分の耳とお前さんの頭を疑うわな」
からからと笑う法起坊の盃に、太郎は無言で酒を注いだ。さすがに笑わなくてもいいと思う。
「ああ、笑って悪かった。だが誰もが絵空事だと思っていたことを、お前さんは実現してしまったんだ。感動だの賞賛だのを通り越して笑えてきてな」
「え、素直に賞賛してくださいよ」
「そうだな。だが……手放しで喜んでばかりもいられないんだろう?」
「……はい」
二人の視線が、かすかに厳しい色を帯びた。
話は、藍の今後のことに及んでいる。
「まさか……3人の力をその身に宿すとはな」
「あの時、あれほど想定外のことが起こっていたとは……まさか藍姫が、父親の力を封じていたなんて」
「そういえば、賀茂忠行はある時期から急に大人しくなっていたな。陰陽寮に出仕はしていたが頭につくことはなく、息子に位階を抜かれていた」
「ええ。知識と技術は確かなものがあったので研究や知識体系を伝えることは続けていたようですね。その結果、超有名陰陽師が誕生したわけで……」
「安倍晴明な。こっそり会った事はあるが、まぁ変わり者だったな」
「息子の保憲は順調に出世していましたね。皮肉なのか何なのか……僕があそこで仕留めそこなったから、偉大な陰陽師が二人も生まれ、あの男も穏やかになった」
「……『人間万事塞翁が馬』というところだな」
俯いたままの太郎に代わり、法起坊は手酌で酒を注いだ。太郎の掌が、ぎゅっと強く握りしめられる様が、法起坊の視界に入った。
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