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繋いだ手を思わずぎゅっと握りしめたら、太郎さんは握り返してくれた。
「……藍は、後悔はない?」
「はい?」
太郎さんはほんの少し寂しそうな顔を見せていた。だけど何か、思い切ったような顔でもあった。
「……傍にいるのが、僕でいいの?」
ああ、そういうことか。
この人は、まだそんなことを言ってるんだ。
「僕にその力をすべて渡してしまえば、かろうじて普通の人間として暮らしていける」
「太郎さん……」
「だから、今ならまだ引き返……」
それ以上の言葉を封じるように、太郎さんの手をぎゅっと強く握った。
強く強く握って……
「あの、藍? そんな強く握ったら……い、いたたたた!! 痛い!」
「それ以上言うと、握りつぶしますよ」
「もう潰れかかってるよ!!」
さすがに振り払った手は真っ赤だった。でも、やりすぎたとは思わない。これくらい刻み込まないと、この人は何度でも私から離れようとするから。
「忘れないでください。次は、太郎さんがどんなに痛がっても離しませんから」
「え」
一瞬ひくつく太郎さんだったけど、私の顔を見て、意味を分かってくれたようだった。そろそろともう一度私の方に手を伸ばしてきて、そっと私の手を包み込んだ。
「ごめん」
そう言って、太郎さんは私の頬を伝うしずくをそっと拭ってくれた。
「ごめん……僕は、いつも間違えてしまうね」
「私も、です」
「そっか。じゃあ……一緒に直していかないとね」
そう言うと、太郎さんは縁側に置いていた空の盃を一つ、私に渡してきた。
「? これ、どうするんですか?」
戸惑う私に、太郎さんはまだ冷酒の入っている酒器を手に取って見せた。
「『メオトノチギリ』……やらない?」
「う……あ、あれは……!」
「うん、君が想像してた方……ぷぷっ」
「わ、笑わないでください!」
思わず叫ぶと、面白そうな気配を感じ取ったのか、向こうで飲んでいた皆がわらわら寄ってきた。
「なんだ? お嬢、ついに三々九度か?」
「おう、いいな。儂がきっちり見届けてやる」
「しかし……藍は未成年だぞ」
「固いこと言うなって。あれっぽっち、どうってことないって」
「どう思います、”お父さん”?」
「……まぁ、あれぐらいなら」
治朗くんの許可がおりちゃった……!
太郎さんは小さな盃にほんの少し、お酒を注いでくれた。皆が見守る中、私はそれを両手で受けて……くいっと思い切って飲み干した。
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