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「……うぐっ! に、苦い……!」
甘くて苦い味が舌の先に乗ると、脳まで一気に熱が上がってくるようだった。瞬間湯沸かし器ってこんな感じなんだろうか。
一気に真っ赤になった私の顔を見て、酒飲みの男性陣が笑った。
「お嬢にはまだ早すぎたか」
「いや、藍姫はかなりの酒豪だったぞ。藍ちゃんもいずれは……」
「……いや、それにしても赤くなりすぎでは……?」
「あれ? 藍? 藍!」
太郎さんの顔がぐにゃんと伸びたり縮んだり……右に行ったり左に行ったり……じっとしない。
じっとさせようとして肩を掴んだけど、まだぐるんぐるん動き回る。
「もう……太郎さん……どこにも行かないでって……言ったじゃ……」
言い切る前に、目の前が真っ暗になった。だけど寒くはなくて、どこかで覚えのある不思議な温かさに受け止められたみたいだった。
「…………え、寝た?」
「寝たな」
藍は、太郎の腕の中で急に寝息を立て始めた。
「治朗、どうなってんだよ? もう潰れたって? 弱すぎねぇ?」
「俺に聞かれても……酒なんぞ飲ませたことがないからな」
「しかし……まさかこんなに弱いとは……」
「藍さんの酒の強さはこの際問題じゃありません。問題は……!」
冷や汗を流す相模の声を遮るように、二人分の足音が近づいてきた。
「お前たち、騒がしいぞ! いったい何を騒いで……」
「あら、まあ」
台所にいた僧正坊と……藍の母・優子が立っていた。立って、現状を目の当たりにしてしまった。顔を真っ赤にして、盃を取り落として、太郎に抱きかかえられて、気持ちよさそうに眠る藍の姿を。
優子が静かな足取りで近づいてくると、自然と集まっていた全員が道を空けた。
「まあまあ、藍ちゃんたら……」
藍が特に悪酔いしている風でもなく眠っているだけということを確認して、優子は改めて全員を見回した。
「どなたかしら? 未成年の藍ちゃんにお酒なんて飲ませたのは?」
笑顔の向こうに浮かぶモノを察知した大天狗たちは、合図もなく、揃って指さした。
太郎一人を。
「ち、ちょっと皆! それはひどくない!?」
「うふふふふ。人望ないのね、太郎さん」
死刑宣告のような笑みを向けられて、太郎は思わず身をよじらせた。が、藍を抱きとめているために動けない。
「ひ……お、お許しを……!」
太郎がこの家に来てからいったい何度目か知れない、悲痛な叫び声が月夜の空に響き渡った。
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