こぼれ話 ~霧、晴れるとき~

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「なんだなんだ、瑠璃嬢? えらい嬉しそうだな。パパのこと思い返してたか?」  真っ赤な顔して絡んでくる三郎さんは、典型的な酔っ払いだけど、今さっき私の心を軽くしてくれたもう一人の人物だ。 「そうですね……瑠璃って名前、ずっと嫌いだったから。でも、ちょっとは好きになれそうです」  この名前が、父からの愛情そのものだったんだと聞いて、素直に嬉しいと思った。父親が狐であるせいで嫌な思いをし続けてきたと思っていたのに……それでも私はまだ、あの人に愛されたかったんだ。そして、きっとお母さんにも愛されたいと思っている。  次、お母さんが帰ってきたら、きちんと話をしてみよう。霧は晴れた。きっと、お母さんの顔を正面から見られるはずだから。 「……良かったな」  三郎さんたち大天狗は、読もうと思えば他人の心が読めると聞いた。きっと今、胸の内を読み取られたんだろうな。  だけど、読まれて嫌だとは思わなかった。 「はい」  不思議と笑って返事をしていた。  すると、三郎さんが返事を返す前に、何かが誰かが、ひょこっと現れた。 「何が良かったの~?」 「嬉しそうです」 「……嬉しい?」 「お、お前らいつの間に……」  三郎さんが教育中の管狐ちゃんたちだ。  確か……琥珀ちゃん、珊瑚ちゃん、翡翠ちゃんだったっけ。 「もしかして……この子たちも、天狐……(くがね)様の娘なんですか?」 「お前さんはパパって呼ばないと拗ねるぞ。まぁ、その通りだ。俺のところにくっ付いて来ちまったもんだからもうカンカンでな」 「それで……三郎さんにはなんか冷たかったんですね」 「本当だったら八つ裂きにされてたかもしれん。瑠璃嬢がいてくれたおかげだ」  笑っているけど、若干顔色が悪くなった。これは……本当なのかもしれない。  だけどそんな三郎さんの様子を気にせず、管狐ちゃんたちは三郎さんの周りをちょろちょろコロコロ駆け回った。 「天狐様?」 「天狐様に会われたのですか?」 「お元気でしたか?」 「おう、元気元気。あの方が萎れてるところなんぞ、見たことないぞ」 「会いたいの~」 「会いたいです」 「会いたい……」 「今はまだ修行中だろ? 一人前になったら、立派な姿を見てもらえ」 「は~い」  三郎さんは厳しいことを言っていたけれど……でも、他の誰あろうお父さんが会いたがっていたような……あれ?
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