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こぼれ話 ~僧正”王子”の華麗なる日々(?)~
拝啓
殿、若君……やはり王子という呼び方が貴方様には相応しいでしょうか。
改めて……
拝啓 王子
貴方が私たちのもとへ来られてはや2か月。桜の花が散り行き、新緑が芽吹き、蕾が先を競って開き始める頃に、貴方は現れました。
貴方という存在は、私にとって突然すぎて、そして鮮烈でした。
髪の先から足元まで、こんなにも輝いた人を私は見た事がありませんでした。艶やかで、現代の高校生男子にしては珍しく肩で切り揃えられた髪。物珍しさから揶揄する人もいましたが、私はそうは思いません。あなたの清廉で爽やかで優雅な物腰を思えば、これほど似合う髪型はないでしょう。
髪だけではありません。涼やかかつ穏やかな目元。うすく淡く彩られた唇。細くしなやかな四肢。なのに他の大柄な男子たちに体育でも一歩も引けを足らない身体能力。
それだけではなく、教養高く、それを偉ぶる様子も見せず、乞われれば誰の質問にも答えてくれる心の広さ……この世に貴方ほど完璧な人間がおられるでしょうか。
あなたのすべてが尊いのです。2か月というわずかな間ですが、あなたのことを影ながら見つめ続け、人となりを知っていくうち、その思いは高まるばかりです。
もう見つめるばかりでは、この胸ははちきれそうで収まりが付きそうにありません。
私はこの思いの丈を、言葉として綴り、貴方に届けたいと思います。
******
「…………ナニコレ?」
「…………私に聞かないでくれ」
「ラブレターよね。僧正坊さん宛ての」
その場のほぼ全員が目を丸くする中、優子がコロコロ微笑みながら言った。
全員の輪の中央には、花柄の便箋が分厚く何枚も綴じられた手紙……というより紙束が鎮座していた。
天狗たちはおそるおそる手に取り、書かれている文字に目を走らせた。
「母君……やめてください」
「あらいいじゃない。年頃の女の子の憧れの的になるなんて素晴らしいわ」
「ああ、そうだとも。お前は学年中の女子から黄色い声援を受けてしかもまんざらでもなさそうだったじゃないか」
「君がぶっきらぼうすぎるんだ、治朗」
「兄者もそんなに愛想を振りまいてはいらっしゃらないぞ」
「でも寄って来られたら真摯に対応するだろう。君の場合はそもそも寄ってくるなという気迫が見えて怖がられている。次代の頭領としてどうかと思うね」
「な、なにを……!」
「治朗の素質はともかくさ~」
言い争いが激化しそうな空気を、セイの暢気な声が真ん中からちょん切る様に響いた。手には、さっきの紙束がある。
「これ……まだまだ思いの丈、綴られてんだけど……」
そう言いながら、セイたちは次のページへと紙をめくった。
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