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第三話 天狗様、潜伏す
「みんな、”かくれんぼ”しよう」
太郎さんは、いつもの調子で、いつもの場所で、いつもの面々に、いつもは言わない提案を始めた。言っている内容と、言っている人物とが微妙に噛み合わずに、私たちはしばし唖然としていた。
「あれ、聞こえなかった? みんな、”かくれんぼ”しようよ。か・く・れ・ん・ぼ」
「いや、聞こえたけどよ……」
唖然とする面々を代表して、三郎さんが太郎さんの言葉に割って入ってくれた。
「お前さん、何か悪いものでも食ったのか?」
「失敬な」
「だってお前……この場にはいい年した奴らしかいないってのに……」
「いい年なんて超えてるよね」
「わかってんじゃねえか」
太郎さんは、普段よりもちょっと目が開き気味で、ちょっと頬が紅潮していた。最近わかってきたんだけど、こういう時はだいたい名案を思いついた時だ。そして、人の意見など聞かない時だ。
だけど何かしら意味があることが……5割だから、聞いてみると納得することもある。聞いてみた結果脱力することもまあまああるけど。
「太郎さん……どうしてかくれんぼなんですか?」
私の問いに、さらに興奮した太郎さんががばっと距離を詰めてきた。
「よく聞いてくれたね、藍! 君にとってすっごく大事なことなんだ」
「そ、そうですか。わかりましたから手を放してください。ぶっ飛ばしますよ」
そう言われて握った手を放す太郎さんじゃないことも、最近わかってきている。そして想像通り、太郎さんは私の言葉など華麗にスルーした。
「これはね、君の為なんだ」
「は、はあ……」
「なんたって、これは君の修業なんだから」
その言葉が出ると、他の方たちの興味が向いてきた。
「それどーいうこと? かくれんぼが修行?」
「うん。そういう質問を待ってたよ。でかした、セイ」
よくわからない誉め言葉に軽く気を良くしているセイさんを置いて、太郎さんは全員の顔を見回した。
「僕はこの前、熱中症で倒れた」
「…………そりゃ、ご愁傷さまで」
「それがどうしたんだよ。鍛え方足りねーんじゃねーの?」
セイさん、熱中症は鍛え方どうこうじゃありません……!
「その時、僧正坊が休めって言って僕に無理矢理、隠遁の結界を張って保健室に放り込んでたんだけど」
「え、兄者……あの時、そうだったのですか!?」
「うん、そう。そのことに、身近にいた治朗すら気付いてなかったんだよね」
「当り前だ。気付かれたら結界じゃないだろう」
治朗くんは、なんだか見る間に萎れていってしまった……。自分が煙に巻かれていいた事実と、太郎さんの一大事に気づいていなかったっていうダブルショックなんだろう……。
「だけど……だけどだよ。藍は、それに気付いたんだよ!」
「……ほぅ、やるな暴力娘」
「そ、そんな大事だったんですか?」
「治朗が気付かなかったものを人間であるあなたが気付いたのですよ。自信をお持ちなさい」
なんだか、天狗様たちの私を見る目がすごく優しい。みんながみんな、保護者のような目だ。治朗くんを除いては……。
「まぁ、要因の一つには『愛』の力もあったとは思うんだけど……」
「ありません」
「……あったとは思うんだけど!」
太郎さんは、無理矢理押し切った。
「ただ、やっぱり素質としては悪くないんだと思うんだよね。もともと”あやかし”たちは見えるんだし、そういった気の流れには敏感なんだと思う」
「まぁ、そうだろうな」
「それでなくとも、賀茂の血筋ですしね」
「そう。だからちょっと鍛えればステップアップは可能だと思うんだ」
「……で、それとかくれんぼと何の関係があんの?」
そこは、まだ皆さんも図りかねているようだった。
太郎さんは、再び世紀の大発明を発表するような誇らしげな顔をして、言い放った。
「参加者はここにいるみんな。題して『結界破りかくれんぼ』!」
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