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今こそ自分の想いを告げようとした時、馴染みの声が晶を呼んだ。晶は振り返る。三木はその声を聞いた一瞬で苛立ちを覚えた。握っていた手がビクッと震えた後、するりと逃げていく。
「純ちゃん……!?」
「お前も来てたんだな。浴衣なんか着てどうしたのかと思ったら……、三木と一緒だったのか」
「う……? うん……」
晶は照れくさそうに頬を掻いている。まるでデート現場を目撃されたようなその反応はやはり好ましかった。が、それになぜかいい顔をしなかったのは純だ。純はいかにも面白くなさそうに鋭い視線を三木に向けた後、やけに明るい声を出した。
「三木、悪いなぁ。ここんとこ晶がすっかり面倒かけてるみたいで」
「いや。花火は俺が誘ったんだ。晶と一緒に行きたかったからさ」
「そうか……」
また。純の顔色が曇った。目を逸らし、彼は三木の顔を見ようとしない。まるで視界に入れないようにしているようにも見える。晶はそれに気が付いてはいないようだ。照れくさそうに頬を真っ赤にして腹の辺りで両の手を握り、何度も何度も握り直している。
「じゅっ……、純ちゃんは? 彼女とデート?」
純は「まぁな……」と返事を濁した。その手にはラムネが二本握られている。大方、彼女とデートにでも来たのだろう。喉が渇いたと言い出した彼女の為にラムネを買って、戻るその途中で晶を見つけた、といったところか。ただ、なぜだか彼はそれについてあまり話したくはなさそうだ。
「晶、お前三木によくお礼言っとけよ。こいつは受験で忙しいのにお前にわざわざ付き合ってくれてるんだからな」
「わかってるよー……」
嫌な言い方をする。それではまるで、三木が晶の相手を仕方なくしているようではないか。先にも言った通り、晶を花火に誘ったのは三木だ。三木は晶に会いたくて会っている。だが、純はそれを聞き流して、まるで三木が晶と嫌々会っているようなことを再び口にした。
それはどこか純が、「そうであって欲しい」、「その方が都合がいい」と言っているようにも見える。
まさか青野……。いや、まさか、な……。
「晶、お前飯はどうするんだ? 花火終わったら帰るんだろ?」
「えっと――」
「夕飯は晶と食べて帰ろうかって思ってるよ」
三木は答える。それに返事すら返さない純は、こちらを見ようともしていなかった。だが、三木は真っ直ぐに彼を見つめた。
「本当はね、さっきたこ焼き買ったんだ。でも花火に夢中になって、食べるのすっかり忘れちゃってさ……! ね、三木先輩!」
「うん、そうだね」
「へぇ……」
純はさも興味がなさそうな声を出したが、どこか不服そうでもあった。間違いない。彼の様子は明らかにいつもと違っている。晶は気付いていないが、苛立ちを必死に堪えているようだ。さっき向けられた鋭い視線だって気のせいではない。しかも、その原因はどうやら三木にあるらしい。と言っても、彼に対して何か気に障ることをしたような記憶は、三木にはなかった。思い当たることがあるとすれば、たった一つだ。
「先輩、もう行きましょう。早く行かないと店いっぱいになっちゃいそう」
「あぁ、それじゃ青野。また――」
「あ、三木……」
「何?」
「いや、いい。後で連絡する」
「……わかった」
元々、純とはそれほど仲がいいわけではない。彼はクラスメイトではあるし、きっかけはもう忘れたがケータイの番号だって知っている。しかし本当にそれだけだ。データはデータとしてあるだけのことで、その番号にかけたことはたぶん一度もなかった。普段教室内でも、三木は純と必要最低限しか話さない。そもそも、性格的に合わないのもあった。それなのに、「電話する」と言うのだから、純には余程話したいことがあるのだろう。
三木は晶を連れてその場を後にした。帰る人の波に乗って土手を上る。だが、背中には鋭い視線が刺さっていた。それを感じて、三木は確信する。
もしかして青野――。
三木が推測するに、純はさっき嫉妬していた。三木とほとんど目を合わさなかったのはそのせいだ。苛立った口調も、背中に刺さっている視線も、たぶんそのせいだ。
でも、青野は付き合ってる子がいるんじゃなかったのか。なんだって急に晶を気にするんだ……?
理由はわからない。だが何にせよ、純は面白くないのだろう。晶への気持ちが恋愛感情なのか、友情なのかは定かではないが、晶が三木と一緒にいるのは我慢できないようだ。
「勝手な奴……」
「え? 先輩? 何か言いました?」
「あぁ、ううん。なんでもない」
ひとまず今は、彼がライバルかもしれない、ということを隠して笑顔を見せる。ただしその陰で不安を抱いた。晶はどう思うだろう。失恋したとばかり思っていた恋が急に叶うとわかったら。ヤキモチを焼かれていると知ったら。忘れかけていたはずの気持ちでも、あっという間に再燃してしまうのではないだろうか。
その可能性は大いにあり得る。三木は悶々としながら、晶と共に駅前へ向かった。
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